日本消化器外科学会雑誌
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特別報告
働き方改革における当直業務の適正化とチーム制・オンコール及び当番制導入について
黒田 慎太郎大段 秀樹
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2023 年 56 巻 2 号 p. 126-131

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I. はじめに

既に各処で述べられている通り,2024年4月より,医師に対する時間外労働の上限規制の適用,所謂「医師の働き方改革」が開始される.国内の施設においては,慌ただしくこの基準を満たすための整備を行っている状況と推察される.しかし,最も肝要な事は目先の基準をクリアすることではなく,本質的にわれわれの働き方を見直すことである.求められる改革をピンチではなく,チャンスと捉えることで,私たち外科医の働き方を再構築し,将来にわたって持続可能な外科診療体制を整備していく必要がある.

医師の中でも最も多忙な部類に属すると考える外科は,この働き方改革が最も求められる診療科である.医師数が増加傾向にある他診療科に比べ,医師数が横ばい,或いは微減1)の外科においては年々高齢化が進みつつあり,これまでの「ブラック」な働き方などの理由から若手医師にそっぽを向かれている状況である.現在がまさに,われわれが長年培ってきた働き方を見直すべき転換点に入っていると思われる.即ち,外科医が心身ともにハードで責任の重い職業であることは今後も変わりないが,それが正当に評価されること.そして,外科医自身も公私ともに充実した生活を送られることを重要視すべきである.

働き方改革の手法としては,タスクシフトなども有効な手段であるが,施設の事情もあり,残念ながら当施設ではそれほど進んでいない.しかし,われわれは診療科内の業務の重複を無くし効率化を図る目的で,チーム制の導入を行い,一定の成果を挙げてきた.本稿では,働き方改革における当直業務の適正化と,われわれの経験も踏まえてチーム制・当番制導入に焦点を当てて述べていきたい.

II. 当直業務の適正化

医師の働き方改革を進める上では,あらゆる業務の重複を無くして効率化を図る必要があり,当直業務についても同様である.当直業務についての問題点は,大きく二つに分けられる.一点目は主に大学病院などに勤務する医師が,一般病院より低水準である給与の差を補うために,院外当直として地域の病院で行う当直業務.二点目は,主たる勤務先で行われる院内当直業務についてである.

1. 院外当直業務の問題点と解決策

最近,当直業務における宿日直許可申請について話題に上ることが多い.宿日直許可を受けた場合,その許可の範囲で,労働基準法上の労働時間規制が適用除外となる.地域医療暫定特例水準である連携B水準では,自院での時間外労働の上限はA水準と同様に年960時間以内ではあるが,外勤先での労働時間と通算して年1,860時間まで許可される.しかし,院外当直業務が宿日直許可を受けていない(夜勤扱いとなる)場合,院外当直の数が制限され,結果的に医師の収入が減少することが予想される.また同時に,28時間連続勤務,9時間インターバルも義務付けられるため,自施設での勤務にも影響を与える.そこで,院外当直先の施設が宿日直許可を受けることが出来れば,地域医療の担い手を確保しつつ,主に大学病院の医師の収入も確保することが可能となる.もちろん,宿日直許可を受けるための条件は,基本的には寝当直に準じるものであり,救急輪番などは受けることが出来ない.そのため,院外当直先となる地域の施設では救急輪番の受け手などについても別途検討する必要がある.

2. 院内当直業務の問題点と解決策

主たる勤務施設における当直の削減は,施設の規模やその性質,診療科における夜間診療の濃淡により,一概に述べることは難しい.例えば,大学病院などの規模の大きな施設では入院患者数や重症患者の占める割合も大きい.また,かかりつけ患者の特殊性もあり,夜間の受診や問い合わせに対応するにも,専門性が必要になる場合もあり,診療科毎に当直医を置いている場合もある.しかし,ある程度の割り切りや,施設の規模や性質などを正確に評価することにより,緊急対応が少なく当直の必要性が薄い診療科などにおいては,バックアップとしてのオンコール及び当番体制を整えることにより,当直の統合(内科系・外科系など)や削減を推し進めていくことは可能と考える.また,その内容が寝当直の場合には,先に述べた宿日直許可を得ることで,その間は休息の扱いとなり,労働時間に換算されないため,一つの解決策として有効である.

実際に当施設では,従来の全科当直体制から,既に一部の診療科ではオンコール及び当番体制に移行している.例えば,放射線診断科ではICT(Information and Communication Technology)の活用により,リモートでの画像診断システムを整えて,オンコール体制へと移行した.緊急への対応度と医師の負担などのバランスから,施設や診療科に合った,無駄が少なく効率の良い当直体制を構築していく必要があると考える.

III. 消化器外科におけるチーム制・オンコール及び当番制導入について

ここでは,チーム制導入による病棟業務の効率化・適正化とその際に必要な情報共有について,われわれの経験も踏まえて述べていきたい.

1. 消化器外科におけるチーム制導入について

消化器外科は,定期手術,緊急手術を問わず手術件数が多く,術後も他診療科などに比べ,病棟管理などに多くの手が掛かると考えられる.また,外傷や急性腹症などの急患対応など,他診療科から大いに頼りにされる反面,従来からハードワークを求められてきた.

夜通し働き,翌日も朝から定期手術のメンバーになるといったことは,一昔前は当然のことであったが,医師の健康に関わるのみならず,手術や診療のクオリティは下がり,患者の不利益にさえ繋がる.プロ野球の先発ピッチャーが,寝不足でマウンドに上がることを想像すれば,これまでいかに無理な働き方を強いられてきたかが理解できる.

働き方改革の中で,われわれが,もっとも力を注いだのはチーム制の導入である.当科も元々は,完全主治医制を敷いており,担当患者の対応は昼夜関係なく主治医の責任であった.そのため,一部の医師に負担と責任が集中することがしばしば見られ,また,業務効率は決して良くなかった.チーム制導入により業務の分担と,相互支援を行うことによりオン・オフをはっきりさせることを目的とした.

2019年の秋より,日常診療におけるチーム制(消化管,肝胆膵・移植の2チームを編成)を導入した(1).初期臨床研修医を除き,消化管外科医師9名,肝胆膵・移植外科医師10名の構成である.それまでとは大きくコンセプトの異なる体制であったため,導入当初は多くの混乱をきたすことが懸念された.特に,固定の主治医がなくなることに対する患者や患者家族の受け入れが悪いことが予想されたが,実際には医療者側からの説明により,ほとんど問題は起こらなかった.

図1 

従来の主治医制からチーム制への移行.特定の医師に負担が偏ることなく,チーム全体での分担と相互扶助により診療にあたる体制となった.

寧ろ,われわれ外科医側の,長年培われた主治医意識の切り替えに若干時間を要した.主治医意識とは,「自分の患者」を「自分の(最良と考える)方法で責任を持って治療する」と言えるが,われわれもそのように教育を受けて育った.しかし,裏を返せば,治療が独り善がりになることもあり,前述の通り効率も良くなかった.一つのチームで,一つの治療方針・方法で診療を行っていくためには,医師同士の相互理解と信頼関係の構築が必要である.

導入の過程で,話し合いと改善を積み重ねながら,大方針は診療科のカンファレンスで決め,細かい方針や方法等は当日に集まったチームメンバーで相談して決定し,その後,分業で効率よく業務をこなしていく体制が整ってきた.その結果,メンバーから診療に対して様々な意見が出るようになり,また,情報の見落としなども減ったことにより,却って医療の質が上がった印象がある.

更に,チーム内での治療方法の統一のために,治療マニュアルを整備し,電子カルテ内での記載方法や記載項目についてのフォーマットを作成するなどの工夫を行ったことも情報共有には効果的であった.

また,付け加えると,共働き世帯や子育て中の外科医などは,チーム制の導入により,家族の行事等の際には平日でも休むことが容易となり,チーム内にも多様性のある働き方を許容する精神が芽生えてきた.最終的には,相互扶助により,チーム全体で診療を回していく仕組みが出来上がり,当初の目的を達した感がある.

2. 夜間・休日のオンコール及び当番制の導入について

オンコール及び当番制において最も重要なポイントは,先程のチーム制の内容にも通じるが,チームの他のメンバーを信頼して仕事を任せることにより,割り切って休息をとることが出来るという部分である.

われわれは,チーム制導入に合わせて,夜間・休日の診療はオンコール及び当番制とし,病棟管理,急患手術は消化管外科当番2名,肝胆膵・移植外科当番2名の合計4名の中で行うこととした(2).具体的には,①休日日中の病棟患者の回診や術後管理,②休日・夜間のオンコールとしての緊急手術,③平日の定期手術が夜間に延長した場合のサポート,なども,原則このメンバーで行うこととなった.一方で,当番以外のメンバーは夜間の呼び出しはなく,休日も非当番日は完全にオフのため,自由に過ごせる時間を持つことが出来,プライベートとの両立も可能となった.従来は休日の日中も医師全員が病棟に集まることが日常であり,完全なオフがなかったことを考えると隔世の感がある.

図2 

夜間・休日のオンコール及び当番制の導入.実際には,消化管外科チーム2名,肝胆膵・移植外科チーム2名の4名体制で,夜間・休日のほとんどの診療を行っている.非当番の医師はオフとなるため,メリハリを持って働くことが出来るようになった.

当院のオンコール及び当番は,時間外労働をした場合には手当てが付くが,自宅での待機中は拘束時間であるにも関わらず,手当は出ない.この部分に関しては,オンコールの頻度などよっても扱いが変わってくるため,手当を出すべきかどうかは議論が分かれ,残された課題の一つと言える.

この体制をさらに一歩進めると,予定された外来や手術などに対応した,変形労働時間制の採用もあるかもしれない.ただ,現在われわれの診療科では業務内容や量に比べ少ない人数で業務をやりくりしているところがある.また,急患や患者急変などの予測できない部分もあり,毎日の業務量を医師側で十分にコントロールできない面もある.消化器外科の場合には,業務量がコントロールでき,且つ,ある程度成熟した医師を集中的に集めた施設以外では,変形労働時間制のような柔軟なシフトを組むことは難しいかもしれない.

3. 情報共有におけるICTの活用

チーム制により責任の所在が曖昧になるのではないかという懸念があるかもしれない.また,オン・オフがはっきりしたがために,オフの間の診療情報が分からずに不安になる場合もある.これらの問題を解決するためには,チーム内でのICTを利用した情報共有が大変重要となってくる.われわれは,既にいくつかの施設でも導入されている,マイクロソフト社が提供するコラボレーションプラットフォームであるMicrosoft Teams(マイクロソフト・チームズ)を利用した診療情報の共有を行っている.

簡単にMicrosoft Teamsの紹介を行うと,クラウドによる情報共有サービスの一種で,①管理者または所有者から送信された特定のURLまたは招待を介して参加できる,限定されたメンバーで情報共有を行う「チーム機能」,②同じく,限定されたメンバーでテキストや画像などをやり取りする「チャット機能」,③「通話機能」,④「Web会議機能」,などを持つ.これらには,個人のPCやスマートフォンからログインでき,時間や場所を問わずに情報共有が可能となる.

われわれは,①,②を用いて,診療チーム内で具体的な診療情報をリアルタイムにやり取りしている.また,コロナ禍による密を避けるために始まった④を用いたWeb診療カンファレンスは,一堂に会する利点よりも,画面や音声が認識しやすいという情報共有の確かさや,リモートでも参加可能という利便性から,現在も尚,継続して行われている(3).

図3 

ICTの活用によりチーム内での情報共有.特定の個人間ではなく,チーム全体での情報共有がスムーズになった.チームのメンバーや扱う症例数が増えるほど,情報共有の重要性は増すと考えられる.

個人情報を含む診療情報をオンラインで取り扱うことには懸念を持たれる場合があるかもしれない.確かに,USBメモリや個人のノートPC,果ては紙媒体の紛失などによる個人情報漏出のニュースは後を絶たない.われわれは,本システムを用いるために,医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.1版(令和3年1月)や,当大学の規定を厳密に確認し,セキュリティの最も高い施設(大学)アカウントのクラウドサービスでの個人情報の取り扱いは可能と判断した.(寧ろ,施設からはクラウドサービス以外での診療情報の取り扱いは危険であり,行わないようにとの通達も受けた.)

Microsoft Teams内のチーム機能で診療情報の投稿が行われ患者スレッドが立つと,その日の担当医により,次々と患者経過や検査データ,画像診断などの診療情報がアップされ,チームのメンバーにリアルタイムに共有される(4A, B).そこで,治療方針に対する意見を相互に出し合いながら,チーム全体で機動性の高い診療が行えるようになった.もちろん,直接の会話やPHSなどによる医師間の情報のやり取りも行われるが,チーム全員での共有の必要がある内容は,直ちにMicrosoft Teamsで共有される習慣がついた.

図4 

A:PC用Microsoft Teamsの画面(例).情報交換の用途に応じて多くのチームが設定される(画面左).診療情報は限定した診療チームメンバー内で共有され,手術症例や急患症例など,患者のスレッドに次々と新しい情報がアップロードされる(画面右).B:スマートフォン用Microsoft Teamsの画面(例).時間・場所を問わず,最新の情報がチーム内で共有され,意見交換を経ながら治療方針が決定していく.

診療の責任は,各臓器チーフにあり,さらに方針決定に迷うときに診療科長まで即座に相談が上がる.Microsoft Teams上の意見のやり取りで方針が決まる場合もあるが,難しいケースなどの場合には,その流れでWeb会議が立ち上がり,緊急ミニカンファレンスが行われるなど,既にICTを用いた近未来の診療の様相を呈してきている.限られた消化器外科医師数で多くのタスクを重複なく,効率よく処理するためには,もはやICT無くしては成り立たないと考える.

IV. おわりに

以上,働き方改革における当直業務の適正化とチーム制・当番制導入に焦点を当てて述べてきた.われわれの試みは,大学病院の消化器外科,移植外科ということで,一般病院の消化器外科と比較し人数の違いもあるため,そのままの形では参考にならないかもしれない.しかし,われわれは,県内の関連病院とも足並みを揃えて働き方改革を行っており,それらの関連病院では,その施設の事情に応じたチーム制(複数主治医制)や休日の当番制などを工夫して行っている.

そもそも,手術時のメンバー間の阿吽の呼吸による動きなど,外科医にとってチーム医療は最も得意とするところである.時代のニーズに合わせて,しなやかに自身の在り方を変え,持続可能な外科診療体制の構築がなされることを望みたい.

利益相反:なし

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