本誌の編集委員となったのは2019年からで,編集後記を担当させていただくのは2回目となります.査読委員となってまもなくCOVID-19のパンデミックが始まり,長らく感染症法上は2類相当でありましたが,3年を経過して今月から5類感染症となりました.消化器外科領域の日常診療へもこのパンデミックは大きな影響を与えたと思います.本誌にもパンデミック下の臨床経験や感染患者の治療経験報告が散見されます.この経験は将来の危機対応にも必ず役立ってくることと思います.
さて第56巻第5号の一押し論文は西村透先生の「回結腸静脈経由に右門脈血栓を除去し左肝切除術を施行しえた肝門部領域胆管癌肉腫の1例」を選ばせていただきました.81歳の男性で減黄目的のEBD tube挿入が原因となり,膵炎,門脈血栓といたったその時点で手術を諦めてしまう先生が多いのではないかと想像します.しかし,回結腸静脈経由の血栓吸引術等で門脈血流を再疎通させ,最終的には根治術を施行して,術後も3年以上無再発で経過しておられるとのことです.もし自分が担当医であったら,門脈血栓が発症した時点で根治術を諦めてしまったかもと思います.外科医が諦めたときが患者さんの根治の可能性がなくなるとき,最後の最後まで諦めることなく可能性を追求していく大切さを再認識させていただきました.
「査読への想い:如何に教育的な査読によりいい論文を作り出すか?」
数えてみますと,私は査読後の再投稿論文も含めてこれまで延べ70編以上の本誌への投稿論文の査読をさせていただきました.編集委員会では,投稿論文の紹介とともに,他の先生方の査読意見を伺わせていただくことで,我々編集委員も勉強させていただいております.
論文は同じような症例を読者の先生が診療した際に何かヒントを与えることができるかどうかが重要だと思っております.それと同時に科学論文としての体裁が整っているかも大きな評価点です.いかに印象的な症例でも体裁が整っていなければrejectになります.
そして,編集委員は皆教育的見地から修正すべき点を指摘させていただき,たとえ本誌で採択とならなくても他雑誌に投稿して採択していただくための改善点になればとコメントさせていただいております.本誌は日本語での消化器外科領域雑誌のなかでは一番採択されにくい雑誌と思っております.これからも貴重な経験を本誌での採択を目指してご報告いただければと存じます.
(山本聖一郎)
2023年5月9日