日本消化器外科学会雑誌
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編集後記
編集後記
岡野 圭一
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2024 年 57 巻 10 号 p. en10-

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先日,皆様の記憶に残っていると思われる2023WBC侍ジャパンヘッドコーチ白井一幸氏のお話をお聞きする機会がありました.WBCで世界一になれた理由とコーチングの重要性に関する興味深い内容で,WBCに選ばれるような一流の選手でも適切な“気付き”がなければ,世界一にはなれなかっただろうという事を述べられていました.日本代表選手たちは,当初は中国戦やチェコ戦などは楽勝と考えていた雰囲気があったようです.しかしながら,試合を通じて当初は日本では無名であったヌートバー選手の全力疾走や敵チームの基本を大切にする姿を見て,すぐに危機感を感じて自らの態度を改めたという事です.おそらくその“気付き”がなければ今回の優勝はなかったという見解であり,その“気付き”を与えて伸ばしていくことがコーチングの一つの面白さであるとのことでした.

なぜ唐突にこの話をするかといえば,これらは臨床や論文査読に通じると感じたからです.毎月かなりの時間をかけて全ての投稿論文の査読に関する会議を行いますが,特に学会邦文誌という性質からも編集委員の共通する思いは,コンセプトがしっかりとしていれば,時間がかかっても良い方向に育て伸ばしていきたいという事につきると感じています.その過程において著者らに適切な“気付き”を与えることが出来れば,一つの論文採択のみではなく次の成長へのステップに繋がるのではないかと思っています.

さて,57巻10号掲載の中で,私の一押し論文は「急性膵炎発症1年後に広範な主膵管内進展を伴う膵腺房細胞癌が出現し膵全摘術を施行した1例」です.比較的まれな膵腺房細胞癌ですが,時に広範な主膵管内進展を伴う事も知られており,手術の1年前に発症した急性膵炎と潜在した腫瘍との関連性を含めて,その病態生理もしっかりと考察された示唆に富む論文です.症例報告を書く際のコンセプトとして一つのお手本ともなるような論文ですので,ぜひご一読ください.

「査読への想い:如何に教育的な査読によりいい論文を作り出すか?」

私が若い時に少し背伸びをしていわゆるトップジャーナルと呼ばれる英文誌に投稿したところ,御高名なMayo ClinicのMichael G. Sarr先生からの実名入りの長文のコメントをいただいた事があります.論文の細部まで目を通していただき,建設的な“気付き”を与えていただける内容であり,全く面識のない無名の若者に対して,ここまで時間を割きご指導いただける事に感銘を受けました.振り返れば外科医でありながらもアカデミックな世界に興味を持った一つの出来事であったと思います.昨年より本学会雑誌の編集委員を拝命して,このような“気付き”を,少しでも次世代に伝えていければと思っています.ぜひ,多くの投稿をお待ちしています.

 

(岡野 圭一)

2024年10月14日

 

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