日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
Paget現象を呈した肛門管原発神経内分泌癌の1例
山門 仁吉松 軍平森本 光昭長野 秀紀松本 芳子棟近 太郎梶谷 竜路吉田 陽一郎濱崎 慎長谷川 傑
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2024 年 57 巻 6 号 p. 308-318

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Abstract

症例は69歳の女性で,肛門痛を主訴に当院を受診した.肛門周囲に全周性の発赤とびらんを認め,下部消化管内視鏡検査で肛門管内に隆起性病変を認めた.肛門皮膚のびらんからの生検にて印環細胞癌と診断され,Paget現象を伴う原発性肛門管癌と考えた.造影CTにて右鼠径部にリンパ節の腫大を認め,経会陰内視鏡アプローチ併用腹腔鏡下直腸切断術,右鼠径リンパ節郭清を施行した.病理組織学検査では肛門皮下に異型上皮細胞の充実胞巣と一部に中分化型腺癌を認め,表皮内に印環細胞様形態の癌細胞が進展していた.免疫組織学的染色では皮下の癌胞巣と表皮内の進展部位にCK7,CK20,CDX2,synaptophysinが陽性で,GCDFP-15,GATA3が陰性であったこと,また腺癌成分が20%程度であったことから,Paget現象を伴う肛門管原発神経内分泌癌と診断した.術後3か月で肝転移再発を認め,1年5か月で癌死した.

Translated Abstract

A 69-year-old woman visited our hospital due to anal pain. Her perineal skin had redness and erosion circumferentially, and total colonoscopy revealed an elevated tumor on the anal canal. Histological diagnosis of a biopsy specimen indicated signet ring cell carcinoma, and primary anal canal carcinoma with pagetoid spread was suspected. Since contrast-enhanced CT revealed swollen right inguinal lymph nodes, combined laparoscopic and transperineal endoscopic abdominoperineal resection with right inguinal lymph node dissection was performed. Histopathological findings of surgically resected specimens showed nests filled with atypical epithelial cells and partially with moderately differentiated adenocarcinoma in the subcutaneous region under the anal skin and signet ring cell-like cancer cells within the epidermis widely spread around the anus. Immunohistological staining was positive for CK7, CK20, CDX2 and synaptophysin, and negative for GCDFP-15 and GATA3 in the tumor cells. Since the adenocarcinoma component was approximately 20% of the tumor lesion, primary neuroendocrine carcinoma with pagetoid spread arising from the anal canal was diagnosed. The patient had recurrence of liver metastasis at five months after surgery and died at 17 months postoperatively.

 はじめに

肛門腫瘍は消化管腫瘍の中でもまれな腫瘍で,なかでも神経内分泌癌(neuroendocrine cell carcinoma;以下,NECと略記)は肛門管腫瘍のわずか1%にしかみられない1).また,肛門周囲に発生する発赤やびらんを伴う腫瘍では,皮膚原発の原発性乳房外Paget病と,直腸肛門管に原発を有する腫瘍性病変から肛門周囲の皮膚に表皮内進展するPaget現象があり鑑別を必要とする.今回,我々は免疫組織学的染色にてGCDFP-15陰性,CK20陽性,synaptophysin陽性のPaget現象を伴う肛門管原発NECを経験したので文献的考察を加えて報告する.

 症例

患者:69歳,女性

主訴:排便時肛門痛

既往歴:特記事項なし.

現病歴:排便時肛門痛を主訴に近医を受診した.診察にて肛門管周囲皮膚の硬結と右鼠径リンパ節の腫大を認めたため,精査目的に当院に紹介受診となった.

現症:身長147 cm,体重43 kg.腹部は平坦・軟.肛門周囲皮膚に全周性の発赤,びらんを認め膣にまで連続していた(Fig. 1).直腸診では肛門管前壁を中心として半周性の腫瘤性病変を触知し,皮膚のびらん,発赤病変と連続していた.また,右鼠径部には皮下に5 cm×5 cmの硬結を触知した.

Fig. 1  Circumferential redness and erosion were observed on the perianal skin and spread into the vagina.

血液検査所見:CEA 48.9 ng/ml,CA19-9 61 U/mlと高値であった.SCC 1.6 ng/mlと軽度上昇していた.貧血や肝機能障害,腎機能障害は認めなかった.

下部消化管内視鏡検査所見:肛門縁に発赤調の隆起性病変を認め,右側寄りに吹き出し様構造と粘膜下の腫瘍性病変を示唆する隆起性変化を認めた(Fig. 2).同部位からの生検結果では,Group 5,signet-ring cell carcinomaと診断された.免疫染色検査にて,腫瘍細胞はCK7,CK20,MUC5ACに陽性,CDX-2に部分的に陽性,GCDFP-15,GATA-3,HER2に陰性であった.

Fig. 2  An irregularly elevated lesion with redness was found on the right edge of the anal canal in colonoscopy.

胸腹部造影CT所見:肛門管の右側壁に造影効果を有する壁肥厚を認め,外陰部の皮下から肛門周囲皮膚への進展が疑われた.また,右鼠径部に腫大リンパ節を認めた.明らかな肝転移や肺転移を示唆する占居性病変は認めなかった.

骨盤部MRI所見:肛門部の右側壁中心に14 mm大の腫瘍性病変が認められ,同部位は等信号に描出されていた.また,右鼠径部にT2強調画像にて等信号を主として一部に高信号が混在する最大径45 mmのリンパ節腫大を認めた.表皮への進展についてはMRIでは描出されておらず同定できなかった.

PET-CT所見:肛門管右側壁の結節にFDG異常集積(SUVmax=3.53)を認めた.腫大した右鼠径リンパ節にもFDGの異常集積を認めた.

以上の所見から,Paget現象を呈する肛門管原発印環細胞癌cT1(15mm)N1(L292)M0 cStage IIIAと診断し,直腸切断術,右鼠径リンパ節郭清を施行する方針とした.

手術所見:経会陰内視鏡アプローチ併用腹腔鏡下直腸切断術,右鼠径リンパ節郭清を施行した.腹部操作では内側アプローチによりS状結腸を授動し,下腸間膜動脈を根部で切離した.S状結腸の授動から直腸周囲の剥離を行った.会陰側のアプローチでは,Paget現象により肛門全周に発赤した所見を認めており,同発赤部位の辺縁および1 cm外側のnegative biopsyにより腫瘍の境界を明らかにし,確実なマージンを確保し皮膚切開を行った(Fig. 3).膣後壁にも色調変化を認めたため,膣後壁も合併切除するように前壁側の皮膚切開線を決定した.続いて腫瘍の露出を防ぐように皮膚断端を縫縮して,GelPOINT(purple)を装着した.内視鏡併用アプローチにて坐骨直腸窩脂肪を切離しつつ,直腸背側で肛門挙筋とendopelvic fasciaを切開し,腹腔内からの直腸間膜周囲の剥離層と全周性に連続させて経会陰的に標本を摘出した.右鼠径リンパ節郭清では,リンパ節の大腿静脈や大伏在静脈への浸潤は認めなかった.手術時間は7時間20分,出血量は77 mlであった.

Fig. 3  The perianal dissection line was determined according to a preoperative negative biopsy with a 1 cm secured margin. The posterior side of the vagina was simultaneously dissected due to invasion of the tumor.

摘出標本所見:肛門を中心に表皮に白色板状変化を認め(Fig. 4a),9時方向に皮下結節を認めた.結節は肛門管内ではなく肛門辺縁の表皮下に認められた(Fig. 4b).

Fig. 4  a: A white plate-like change on the perianal skin. b: A submucosal nodule on the right side of the anus.

病理組織学的検査所見:肛門縁皮膚直下に癌胞巣が存在し,発育先端部では外肛門括約筋皮下部と思われる横紋筋へ浸潤していた(Fig. 5a).皮下結節内には異型上皮細胞が壊死や小血管を伴う充実胞巣を形成していた.充実胞巣内には類器官構造を認め,小腺腔構造,ロゼット構造,胞巣辺縁の柵状配列も認めた(Fig. 5b).一部では,胞巣外に粘液の貯留を伴っていた.癌胞巣は表皮直下まで進展し,表皮内で印環細胞癌様形態を示す癌細胞が広範に進展していた(Fig. 5c).また,肛門管扁平上皮直下の間質に浸潤する腫瘍組織の一部に明らかな腺腔を形成し粘液を産生する中分化型腺癌の組織像を認めた(Fig. 5d).免疫組織学的染色では,皮下の癌胞巣部分および表皮内のPaget現象を示す癌細胞ともにCK7,CK20,CDX2,synaptophysinが陽性で(Fig. 6a~d, Fig. 7a~d),GCDFP-15,GATA3,chromogranin A,CD56は陰性であった.特に,癌胞巣のKi-67染色では80%以上の陽性細胞を認め(Fig. 8),鼠径リンパ節#292rtについて癌細胞を認めリンパ節転移と診断した.以上の所見より,Paget現象を伴う肛門管原発NEC(pT2N1aM0,pStage IIIA)と診断した.NECの分類としては,2010年WHO分類に基づきlarge cell typeと診断した.

Fig. 5  a: The perianal nodule was located close to the intersphincter groove and had invaded the external anal sphincter. b: A small glandular structure and rosette structure were observed in the nodule as a feature of NEC. c: A vacuole in the cytoplasm was observed as a signet ring cell carcinoma-like feature in the pagetoid spread. d: Moderately differentiated tubular adenocarcinoma in the subepithelial tissue and mucus stained for confirmation of tubular adenocarcinoma.
Fig. 6  Immunohistological staining was positive for CK7 (a), CK20 (b), CDX2 (c) and synaptophysin (d), and negative for GCDFP-15, chromogranin A and GATA3 in the subcutaneous cancer follicles in the NEC.
Fig. 7  Immunohistological staining was positive for CK7 (a), CK20 (b), CDX2 (c) and synaptophysin (d), and negative for GCDFP-15, chromogranin A and GATA3 in the pagetoid spread.
Fig. 8  The percentage of Ki-67 positive cells in the NEC was greater than 80%.

術後経過:術後麻痺性イレウスを生じ,絶食・輸液により保存的に加療を行い,第36病日に退院となった.術後補助化学療法としてイリノテカン+シスプラチン(以下,IPと略記)療法を開始した.化学療法開始後19日目にGrade 4の好中球減少(好中球数399/μl)を認め,IP療法は1コースのみで中止した.術後3か月目のCTで肝臓に転移を2個認め化学療法を勧めたが治療を希望されず,術後1年2か月目のCTで大動脈周囲リンパ節転移,左鎖骨上窩リンパ節転移再発を認め,術後1年5か月目に癌死した.経過中,側方リンパ節転移,局所再発,播種再発は認めなかった.

 考察

乳房外に発生するPaget病変は,皮膚原発癌としての原発性乳房外Paget病と,隣接臓器の癌が上皮内に進展し広く表皮内進展を来す続発性乳房外Paget病としてのPaget現象(pagetoid spread)の二つに大別される2).乳房外Paget病と記した際に,これら二つの異なる疾患の総称として用いられる場合と,原発性乳房外Paget病を単に乳房外Paget病と記し,続発性Paget病をPaget現象,またはpagetoid spreadとして記すことで区別している場合があり,臨床の現場では注意を要する(Table 1).最近の文献を見るかぎりにおいては,後者のように乳房外Paget病は原発性乳房外Paget病を意味し,続発性乳房外Paget病はPaget現象,またはpagetoid spreadと記されていることが多いようである.

Table 1 Clinical features of extramammary Paget disease (EMPD) and pagetoid spread

EMPD
Primary EMPD Secondary EMPD
Description sometimes described simply “EMPD” Paget’s phenomenon or Pagetoid spread
Origin apocrine sweat gland neighboring organ cancer
Location vulva, perianal, axilla ・urinary cancer to vulva
・uterine cancer to vaginal vestibule
・anorectal cancer to perianal

発見契機となる初診時の主訴については,生澤ら3)の42例のまとめによると排便後の出血,肛門部掻痒感,肛門部の発赤,腫瘤の触知が多く認められ,特に肛門部の掻痒感が6か月以上続く場合にはPaget病やPaget現象を疑うことが重要である.肛門周囲に発生する原発性乳房外Paget病の皮疹では,ある一点から腫瘍が発生し肛門辺縁に限局して皮疹を形成されやすいのに対して,消化管や泌尿生殖器に原発巣を有する続発性乳房外Paget病(Paget現象)の皮疹では消化管などの悪性腫瘍から遠心性かつ表皮内を進展するために全周性の皮疹として認められることが多いと報告されている4).本症例においても肛門周囲に全周性の発赤,びらんを伴う皮疹が見られ続発性乳房外Paget病を疑う所見が見られた.しかしながら,原発性乳房外Paget病との鑑別を行うためには下部消化管内視鏡検査や泌尿器,子宮・膣などの周囲隣接臓器の悪性腫瘍の検索,および病理組織診断が必要不可欠であり,この鑑別は治療方針や予後に大きな違いがあるために非常に重要である.

特に,今回我々が経験した本症例は肛門管に発生したNECを主たる病巣とする腫瘍であり,肛門管癌におけるNECの頻度がおよそ1%とされていること1),肛門管癌自身の頻度が低いことを合わせて考えると非常にまれな腫瘍である.さらに,肛門管癌においてPaget現象を示す症例は3.1〜6.1%と報告されており5)6),一般的には腺癌での報告が多くを占めるなかで,医学中央雑誌で1964年から2022年12月の期間で「pagetoid」,「Paget現象」,「神経内分泌腫瘍」,「神経内分泌癌」,「肛門管癌」,「直腸癌」(会議録を除く),PubMedで1950年から2022年12月の期間で「pagetoid」,「neuroendocrine」をキーワードとして検索した結果,肛門管に発生したNECにPaget現象を伴っていた症例は,本症例を含めてこれまでにわずか6例のみの報告であった7)~11).この中でGuoら7)の2004年の報告では,NECの成分以外に中~低分化型腺癌の存在を指摘しているが,その分布割合の記載はなく,現在でいうところのNECか腺神経内分泌癌(mixed adenoneuroendocrine carcinoma;以下,MANECと略記)かの鑑別はされていない.近藤ら8)の報告では高分化型管状腺癌とNECが混在しており2010年にWHOにて提唱された定義をもとにMANECからのpagetoid現象と診断している.一方,Fukuharaら9)の報告では管状腺癌の成分はわずかに認めるのみで,Tateishiら10)の報告では腺癌成分を認めていなかった.また,古元ら11)はPaget現象を呈した粘液癌と神経内分泌癌の混在を報告しているが,手術適応がなく生検検体のみであったため原発巣をNECとするかMANECとするかについては確定できていない.本症例では,手術検体での病理学的所見においてsignet ring cell carcinomaと中分化型腺癌の成分が混在していたが,その割合は20%程度にとどまり,NECの成分がおよそ80%を占めていたことから,MANECではなくNECと診断した.一方で,癌組織発生の点について,歯状線近傍の粘膜上皮には明らかな腺癌成分を認めていなかったことから,肛門管の扁平上皮直下に存在する付属線領域からの腺癌の発生に始まると推測される.肛門管の扁平上皮直下の間質に浸潤する中分化型腺癌の成分をわずかながら認めていたことと,神経内分泌細胞癌成分のKi-67が80%以上陽性であったことから,本症例の神経内分泌細胞癌の増殖速度が速く,初期病変である中分化型腺癌が神経内分泌細胞癌によって置換された可能性を考える.

続発性乳房外Paget病であるPaget現象との鑑別に重要な病理組織学的診断については,Goldblumら12)が1999年に肛門周囲に発生した乳房外Paget病についてGCDFP15陽性の汗腺由来の原発性腫瘍とsignet ring Paget cellsを含む管腔内壊死を伴うCK20陽性の腫瘍に分類されると報告しており12),この後者の腫瘍がPaget現象と同一のものであり,Paget現象の最初の報告とされている.HE染色では原発性,続発性どちらの腫瘍においても表皮内に円形で大型のPaget細胞を認めることから,腺組織の大きさ,腫瘍細胞の均一性,ムチン貯留,裂隙形成について差異があるとはいるものの,HE染色のみでの鑑別は難しく,診断には免疫組織学的染色が有用とされている.Table 2に本症例の鑑別診断に必要であった原発性乳房外Paget病,直腸癌および肛門管癌からのPaget現象,直腸NECからのPaget現象について記した7)~11)13)14).原発性乳房外Paget病とPaget現象の鑑別に特に重要なマーカーは,アポクリン汗腺やエクリン汗腺に存在するGCDFP-15と消化管上皮や膀胱上皮に存在するCK20である3).原発性乳房外Paget病ではGCDFP-15陽性,CK20陰性となり,Paget現象ではGCDFP-15陰性,CK20陽性となる12).本症例では術前の生検,および術後の切除検体による免疫組織学的検査においてGCDFP-15陰性,CK20陽性であることからPaget現象による皮疹であると鑑別された.また,本症例で行われたCK7についても重要なマーカーとなる.佐伯ら2)の報告の中で,直腸肛門管癌には直腸型腺癌と肛門腺由来癌があり,直腸型腺癌ではCK20陽性/CK7陰性を示すのは65~95%で,CK7陽性を示すものが13~22%存在することが文献的にまとめられている.また,肛門腺由来癌についてはCK20陰性/CK7陽性,粘液癌についてはCK20陽性/CK7陽性となるといわれている.佐伯ら2)が行ったPaget現象の本邦81例の報告においても,CK20陽性/CK7陽性が59%と最も多く,CK20陽性/CK7陰性の症例は39%,CK20陰性/CK7陽性が2%,CK20陰性/CK7陰性は0%であった.本症例でも行われたCDX2染色は腸上皮マーカーとして下部消化管由来であることを示す有用な染色であることが報告されており,一方で,原発性乳房外Paget病でGATA3染色陽性となることから,迷われる症例ではCDX2,GATA3の染色を加えることも鑑別診断に有用である15)16).一方,本症例は神経成分を示すsynaptophysinの免疫染色検査が陽性であり,肛門管に発生したNECに由来するPaget現象と診断された.Chromogranin Aについては,特異度は高いものの感度の点でsynaptophysinにやや劣り17),特に後腸系である直腸NETでは陰性あるいは部分陽性にとどまることが多いとされており18),本症例ではchromogranin A陰性であった.

Table 2 Pathological features of extramammary Paget disease and pagetoid spread

Case Author Year GCDFP-15 GATA3 CEA CK7 CK20 CDX-2 Chromogranin A Synaptophysin
Extramammary Paget disease + +
Pagetoid spread derived from rectal adenocarcinoma + – or + + +
1 Guo 7) 2004 + + + NA + +
2 Kondo 8) 2017 + + + NA + +
3 Fukuhara 9) 2021 NA NA NA NA + + + +
4 Tateishi 10) 2021 NA + + + NA NA
5 Furumoto 11) 2022 NA + + + + + +
6 Our case NA + + + +

Paget現象を呈した続発性乳房外Paget病の治療方法は原発巣の病変の治療に準じる一方で,表皮内進展したPaget現象の部分をどのように切除するか考える必要がある.皮膚病変に対する切除線の決め方については,Paget現象に対する明確な検討はなく,原発性乳房外Paget病に対する切除線の考え方を参考にするしかない.原発性乳房外Paget病では手術の際に病変領域の全層切開と3 cm以上のマージンを取ることが推奨されてきたが,2005年のMurataら19)の報告によると境界明瞭な乳房外Paget病に対し肉眼的に1 cmの距離をとったとき,肉眼的病変の境界と組織学的境界の距離の差は0.334±1.183 mmであり,63例フォローにて局所再発は見られなかったとしている.ただし,Paget現象で直腸肛門管に由来する悪性腫瘍の場合には低分化型であることが多く,mapping biopsyが重要と考えられる20)21).本症例では,皮疹の境界は明瞭で術前にnegative biopsyを行い皮疹から1 cm以上のマージンを確保して切除線の決定を行った.また,本症例での経肛門的アプローチは,皮膚の切開の後に2重にpurse-string sutureにて縫縮することで腫瘍が露出するのを防ぎつつ,送気して鏡視下に手術を行った.腫瘍遠位側のpurse-string sutureについては,不完全な手技に起因する局所再発率の増加が報告されており,十分なトレーニングと慎重な手技の遂行が肝要である.

本症例は,生検にて印環細胞癌と診断されたが,結果的にはNECを主体とする病変であった.肛門管原発NECの治療方針やその適応について明確な治療アルゴリズムはないの,切除可能なものについては切除を行い,切除不能例には化学療法が施行されることが多いようである.医学中央雑誌にて1964年から2022年12月の期間で「肛門管」,「神経内分泌癌」で会議録を除いて検索したところ肛門原発のNEC 17例を集計しえた7)8)11)22)~35).17例中14例に手術切除が行われており,化学療法のみを行ったものが2例,化学放射線療法のみを行われたものが1例であった.手術が行われなかった3例に関しては肺・骨転移,傍大動脈リンパ節腫大などいずれも非治癒因子を認めており,本症例を含め切除可能な症例に対しては原発巣の切除およびリンパ節郭清が行われている.また,初診時にリンパ節転移を有していたものが8例報告されており,その多くが鼠径リンパ節であった.リンパ節転移があったとしても,非治癒因子がない症例には手術が行われている.ただし,直腸癌を含めた多くの癌種で術前治療が行われるようになってきており,本症例のように予後の厳しい症例では今後術前化学療法を併用するなどの集学的治療が有効な可能性があると考える.

NECの予後に関しては前述の集計でもわかるように治療したとしても不良なものが多い.大腸内分泌細胞癌の発生頻度は低いものの,早期に血行性・リンパ行性転移を来しやすく,海外の報告では生存期間中央値は7~10.4か月程度であり,1年生存率46%,3年生存率13%との報告もある36).神経内分泌腫瘍のガイドラインによると,NECに対する切除後の補助療法について,1.切除標本のKi-67が高い場合,2.リンパ節転移陽性例,3.組織学的断端陽性,4.肝転移巣切除後などでは術後再発率が高いと記載されており,本症例ではKi-67が80%以上と高く,リンパ節転移も認めており術後補助化学療法の適応と判断した.NECに対する術後補助化学療法に関しては確定したレジメンは存在していないのが現状である.腺癌成分を含む症例には大腸癌のレジメンが有効である可能が示唆されたという報告があり37),NECに関しては,腺癌成分を30%以上含むMANECでの有効性が期待できる.一方で,本症例に関しては腺癌成分に乏しかった.NECに対する化学療法については,同ガイドラインによると性質が比較的類似している小細胞肺癌の化学療法に準じて,EP療法,または,IP療法が適応とされており,本症例に対しては大腸癌に準じたレジメンではなく,肺小細胞癌に準じたプラチナ系薬剤を含む併用療法を行った.欧米ではエトポシド+シスプラチン療法(EP療法)の消化管・膵NECに対する奏効率67%,生存期間の中央値19か月の報告があり使用されることが多い38).本邦ではCPT-11+CDDP(IP療法)の使用報告が多く,奏効率84%,生存期間中央値12.8か月と報告されている39).また,肺小細胞癌においてIP療法がEP療法に対して優越性を示したことより40),本症例ではIP療法を選択した.しかし,好中球減少傾向のため中断せざるをえなくなり,3か後の造影CTで肝転移が2個出現し,術後1年5か月で癌死した.近藤ら8)が行った肛門管内に発生したpagetoid現象を伴うmixed adenoneuroendcrine carcinomaの報告例においては術後1か月で肝転移再発,術後9か月で原病死していた.本症例同様に短期間での原病死による死亡例で,今後症例の蓄積により臨床病理学的な知見の集積とともに予後の解析も重要な課題である.

謝辞 本病理診断を行うにあたり助言を頂いた福岡大学筑紫病院病理部の二村聡教授に深謝申し上げます.

利益相反:なし

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