1992 年 25 巻 1 号 p. 127-131
症例は65歳, 男性. 近医で肝腫瘍を指摘され当院へ紹介された. 各種画像診断で肝右葉後区域の11cm大の肝細胞癌と診断した. 門脈は後枝が単独で分岐し, その後で前枝と左枝に分かれる形態を示した. 肝機能が良好であったので肝右葉切除術を施行したが, 術中に門脈本幹を後枝と見誤り離断した. 温存された門脈血流は左尾状葉枝のみとなり, 肝不全は必至と思われた. 離断した門脈断端の直接吻合は困難な状況であったため, 臍静脈を再開通させて腸側門脈断端と端々吻合した. 術後経過は良好で, 術後の血管造影では吻合部の開存が確認された.
術中損傷は予防が大切であり, とくに肝門部のような重要な部位の脈管切離時には, 切離してよいものかどうかの確認を十分に行うことが肝要である. 不幸にして門脈離断を生じ直接吻合が困難な場合には, 門脈臍静脈吻合は試みるべき方法の1つと思われた.