2002 年 35 巻 9 号 p. 1507-1511
症例は68歳の女性で, C型肝炎ウイルス陽性の肝硬変で経過観察中, 右下腹部腫瘤と肝腫瘍が発見された. 腹部CTで, 肝左葉と右腹直筋内に造影される腫瘍を認めた. 肝腫瘍に対し左・中肝動脈から, 右腹直筋内腫瘍に対し右下腹壁動脈から, エピルビシンとリピオドールの選択的動脈注入(TAI)を施行した. 約1か月後, 肝腫瘍は若干縮小, 腹直筋腫瘍は著明に縮小した. 肝腫瘍に対して, 肝予備能が不良で肝切除術よりTAIの追加治療が必要で, 腹壁欠損が軽度であることから, 腹直筋腫瘍切除術を施行した. 病理組織学的検索で腫瘍は大部分が壊死に陥っていたが, 残存していた腫瘍細胞から肝細胞癌の転移と診断した. 術後5か月で, 腹直筋転移の再発なく経過観察中である. 肝生検や経皮的エタノール局所療法などの経皮的穿刺の既往のない, 肝細胞癌の腹直筋転移は極めてまれで, 腹直筋転移巣に対する下腹壁動脈からのTAIは極めて有効であり, 文献的に自験例が第1例目であった.