抄録
実験室内に設けたモデル河川中に, 河川の基本的食物連鎖系としての“水→付着藻類→水生昆虫および魚類”系を再現し, この系内におけるメチル水銀の濃縮・移行・分解について検討した。また, 別に水槽実験により水生昆虫, 魚類による水中メチル水銀の直接吸収量を定量し, 食物連鎖系の栄養段階上位生物群の水銀濃縮に果たす食物連鎖の役割と水中からの直接吸収の役割を比較検討し, 以下の結果を得た。
1) 付着藻類が良く繁殖した河川モデルに投入されたメチル水銀はその95%以上が, 1日以内というきわめて短時間に水中から消失した。この消失は藻類の吸収に基づくものであって, 藻類はメチル水銀を水から急速に, 効率良く濃縮した。
2) 清浄な水域から採取した藻類の繁殖した河川モデルにメチル水銀を高濃度添加すると, 藻類の種類構成は大きく変り, 汚濁耐性種とされている藻類によって置き代った。
3) 藻類に吸収されたメチル水銀は比較的速やかに分解された。この分解能は藻類の種類によりかなり異なり, 汚濁水域に出現する藻類は清浄な水域に出現する藻類よりもメチル水銀分解能が高かった。その結果, 汚濁水域モデルの藻類中のメチル水銀濃度は, より高濃度のメチル水銀を投入したにもかかわらず, 低濃度メチル水銀を投入した清浄水域モデルの藻類中メチル水銀濃度よりも低いという予想外の結果を得た。
4) メチル水銀を含む藻類を飼とした場合, 水生昆虫および魚 (ウグイ) に蓄積されるメチル水銀濃度は藻類中のメチル水銀濃度にほぼ比例した。
5) 食物連鎖経由によるメチル水銀の蓄積については, 魚は水生昆虫より量的に低く, 蓄積速度も遅かった。また, 魚のうち幼魚は成魚よりも高濃度蓄積した。
6) 生物の水銀蓄積に果たす食物連鎖の寄与率はメチル水銀投入濃度5ppbの場合, 昆虫, 魚ともに50%以上を占めていたが, 10ppbの場合魚のそれは15%に減少した。
以上の結果より, 栄養段階上位生物群のメチル水銀濃縮に占める水中からの直接吸収と食物連鎖経由の間接濃縮の割合は, 一概にどちらが大きいとは断定出来ず, メチル水銀低濃度汚染の場合は食物連鎖の果たす役割が増大し, 一方高濃度汚染の場合は水中からの直接吸収の果たす役割が増大するものと推定された。