抄録
体重3∼4kgのオス家兎14羽を2群に分け, 1群には塩化コバルト水溶液を40mg/kgの割合で耳静脈に注射し, 他の群には同量の生理的食塩水を静注し, 45分, 2時間, 24時間後の脂質代謝に及ぼす推移を比較観察した。
コバルト注射に伴って, 血糖は45分, 2時間で一過性に上昇したが, 24時間後には注射前のレベルにもどった。血糖と共に血漿インシュリンも2時間後に上昇したが, 24時間後には減少の傾向を示した。コバルト注射群の血漿FFAは対照群に比べて有意の差を示さなかったが, 血漿トリグリセライドは24時間後に約20倍に上昇し, これに伴って, 肝のトリグリセライド量も増量した。
肝のα-グリセロ燐酸は2時間後に顕著に増量し, 24時間後にもなお増量する傾向がみられた。
血漿インシュリンの増量にも拘わらず, 肝の cyclic AMPは2時間, 24時間後でも, 対照群に比べて差がなく, また24時間後の肝のライソゾームのトリグリセライドリパーゼの活性には, free でも total でも, 対照群に比べて有意差はみられなかった。
以上の結果は, コバルト静注24時間後にみられた高トリグリセライド血症が, インシュリンの増量に伴う肝のトリグリセライドの脂肪分解の阻害によるものでないことを示唆している。