抄録
東京都およびその近隣に在住し, 特記すべき環境暴露および職業暴露を有しない日本人の男性1,008名, 女性891名の毛髪分析成績をもとにその特性に関する統計学的な考察を行った。対象とした元素はCa, Mg, P, Na, K, Fe, Cu, Mo, Mn, Zn, Cr, Se, Li, Ni, Co, V, Pb, Hg, Cd, Al, Asの21種で, 主たる分析法はICAP法である。
各元素の分布について適合度検定を行った結果, 0.1%レベルにて正規分布あるいは対数正規分布とみなし得る元素は男女ともに存在しなかった。ただし, PとZnは正規様のCa, Mg, Na, K, Mnは対数正規様の分布を示した。各元素濃度と年齢との関係では, 年齢階層別に reference value を設定すべき元素は認められなかった。しかし, t-検定および各種ノンパラメトリック検定の結果, P, Na, K, Hg (男性に高値), Ca, Mg, Cu, Zn (女性に高値) の8種の元素がいかなる検定に於ても男女差を示した。また, 相関・偏相関の検討および因子分析の考察より, 元素相互の動きに一定のパターンが認められ, またパターンに男女差が認められた。Ca-Mg, Na-Kの組み合わせには両性を通じて高い相関が認められ, このような元素対に対しては, その比をとって多寡を考察することも意義あるものと思われた。
以上の考察に基づき, Herrera の percentile 法により screening level として妥当性のある日本人毛髪内微量元素の Reference value を設定した。毛髪内微量元素の疾患特異性あるいは国際比較を論ずる際の基礎的数値となるものと思われる。