医療経済研究
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研究ノート
DEA 手法を用いた病院診療科別の経営効率性分析 ―自治体病院を事例として―
小川 憲人福永 肇伊藤 健一南 商尭
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 34 巻 1 号 p. 17-32

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抄録
我が国の医療機関は経営効率性に課題があり、財政的にも社会的にも法律的にも改善が求められている。現状を把握、認識するために生産効率性の評価が必要である。生産性経営効率性評価を行う分析手法にDEA(Data Envelopment Analysis、包絡分析法)がある。医療提供でのDEA の先行研究では、病院全体の経営形態、医療サービス供給に重点を置いた分析が行われている。しかし、本来的に生産技術の異なる病院診療科毎の分析は現在まで実施されていない。  そこで、本研究は各診療科の経営効率性を検討するため、診療科ごとの詳細かつ多項目なデータを用い、DEA を用いて分析した。病床数や医療従事者数などにおける規模の差がある病院間の比較を行い、各診療科のD 効率性の格差を分析し、その差が生じている要因を推定した。データは『地方公営企業決算状況調査』から抜粋した某三次医療圏の18 自治体病院の平成29 年度の経営計数一覧表を使用した。分析不可能な診療科を除き、選択した18 診療科のD 効率性を評価した。DEA における産出量には①入院収入、②外来収入の2 変数、投入量には①入院患者数、②外来患者数、③延医師数の3 変数を採用した。DEA は産出指向型モデルを適用し、CRS・VRS モデルに基づく技術効率値の基本統計量、各モデルの規模の経済性の評価、Tobit モデルに基づく要因推定を行った。  結果は、全体の中央値はCRS モデルが0.972、VRS モデルが1 となり、四分位範囲はCRS モデルが0.196、VRS モデルが0.101 となった。診療科別の効率値1 の個数は、CRS モデルで38%~ 83%となり、VRS モデルでは44%~ 88%となった。CRS モデルでD 効率性の格差が小さいのは神経内科・歯科・循環器内科で、格差が大きいのは麻酔科・リハビリテーション(以下、リハ)科となった。一方で、VRS モデルでは、格差が小さいのは神経内科・循環器内科・心血管外科・歯科・泌尿器科で、反対に格差が大きいのは麻酔科・リハ科となった。外科・皮膚科・泌尿器科では規模の拡大が推奨されるIRS の割合が多く、心血管外科・耳鼻咽喉科は規模の縮小が推奨されるDRS の割合が多かった。Tobit モデルの多変量解析の結果では、医師勤続年数・医師平均年齢が要因としてD 効率性と有意に関連していた診療科が存在した。この研究により、検討対象にする診療科によって効率性格差が大きく異なる診療科と、大差はない科が存在することが示された。今後、効率性を論じる研究では、存在する診療科と規模による影響を考えた分析を行う必要が示唆される。
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© 2022 本論文著者
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