近年約15年の間に,ベトナムの首都で国内第二の都市であるハノイでは急激に都市化が進み,近郊農村では多くの農地が工業用地,商業用地,住宅に転用された。本研究の目的はハノイ近郊における農地転用とその農民への影響を明らかにすることであり,社(行政村)という小地域での世帯インタビュー調査結果から帰納的にアプローチする。本稿は3つの部分で構成されている。まずハノイ市の急速な都市化と農地収用にともなう諸政策,とりわけ農地転用に伴う補償制度について概観する。そのうえで,事例地域であるメーチー社における2000年から2007年にかけての農地転用,農地収用,農地補償の実態を明らかにする。本研究を通じて,メーチー社では農村地域から都市化された地域へと急速に変化し,その結果,農民の生活様式や職業までもが変容してきたことが明らかになった。その上で,農地転用の農民への影響を検討し,就業構造の変化,伝統的な食品加工業の低迷,農地保障金の利用実態と将来のリスクといった問題を抽出した。