人文地理
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論説
最寄駅徒歩圏居住に向けた中古集合住宅の役割―2000年代の東京大都市圏を事例として―
佐藤 英人清水 千弘唐渡 広志
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2018 年 70 巻 4 号 p. 477-497

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抄録

本稿の目的は,2002年から2008年までに実施された大規模質問紙調査を用いて,東京大都市圏で中古集合住宅を購入した世帯の特徴と彼らの住居移動を分析することである。日本の住宅市場は主に新築住宅で構成されており,中古住宅の普及が欧米諸国よりも立ち遅れている。日本最大の住宅市場を有する東京大都市圏であっても,中古集合住宅の売却希望件数が売買契約の成約件数を大幅に上回り,供給過剰な様相を強めている。中でも都心 40km 以遠の郊外では売買契約が成立しがたく,加えて最寄駅非徒歩圏に位置する住宅となれば,成約に至る割合は極めて低い。ただし,中古住宅は新築住宅よりも物件の種類が豊富なため,幅広い所得層に取得機会を与えるなど,一般消費者がニーズに合った住宅を選択しやすいメリットがある。たとえば,身体機能の弱化を予見した高齢世帯が,最寄駅非徒歩圏に所有する戸建住宅を処分して,最寄駅徒歩圏の中古集合住宅へ住み替えるケースは,中古住宅の新たな需要を喚起する動向として注目される。つまり,これまで敬遠されてきた中古集合住宅が自家用車に依存しない「最寄駅徒歩圏居住」の実現に寄与している。

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© 2018 一般社団法人 人文地理学会
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