本稿は,インド北部における大手養鶏企業の進出にともない,ブロイラー養鶏がどのように受容されたのかを検討した。インド北部はもともと養鶏業に不向きな諸条件を有する地域であり,南部に比べてアグリビジネスの進出が遅れてきた。しかし2000年代以降,インド北部に大手養鶏企業が進出し,改良品種や契約取引を普及させたことで,ブロイラー養鶏の産地化が進んだ。ハリヤーナー州における調査の結果,総じて社会階層が高く土地所有規模の大きな農家層にブロイラー養鶏が受容されたことが判明した。これは,ブロイラー養鶏に多額の鶏舎建設費と一定の鶏舎用地が必要なことによる。これらの農家がブロイラー養鶏の経営を維持できたのは,①改良品種の導入,②直接取引・契約取引へのシフト,③飼養労働者の雇用によって,インド北部の養鶏業に不向きな諸条件を克服できたためと考えられる。このうち,農家による改良品種の導入に寄与したのが,大手養鶏企業に系列化された個人経営の孵卵業者であり,この点は企業が産地化に主導的な役割を果たすインド南部と状況が異なる。しかし一方で,大手養鶏企業は若年農家層を中心に契約取引を進めるなど,インド南部と同様の産地化もみられる。すなわちハリヤーナー州では,大手養鶏企業がインド北部の養鶏経営に適応した系列化と,南部で進めてきた契約取引を組み合わせることで産地化を進め,それがブロイラー養鶏の受容に寄与したといえる。