人文地理
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展望
ポリティカル・エコロジー論の系譜と新たな展開―スケールに関する議論を中心に―
小泉 佑介祖田 亮次
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2021 年 73 巻 3 号 p. 245-260

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抄録

本稿では,1980年代以降の英語圏における地理学者を中心に発展してきたポリティカル・エコロジー論(PE 論)が,いかにして独自の枠組みを発展させてきたのかについて検討する。特に本稿では,2000年代以降の PE 論における新たな展開として,スケールの議論に注目した研究に考察の焦点を絞る。PE 論の系譜をたどると,1980年代は文化生態学や生態人類学,新マルサス主義の分析視角に対する批判的検討を出発点として,生態学と政治経済学の統合的アプローチを提示した。1990年代には PE 論独自の枠組みを模索する中で,ポスト構造主義的な視点に基づく社会理論との接合を目指す研究が増加し,取り扱うテーマも環境・開発に関わる言説やジェンダー研究へと広がりをみせた。2000年代以降は再び生態学的な視点への関心が高まっており,こうした流れと連動するかたちでスケールの議論に関する研究が注目を集めている。特に PE 論のスケールに関する議論は,土壌や植生といった自然環境条件に基づく「生態的スケール」と,社会的・政治的なプロセスを通じて構築されるスケールとの相互作用に着目していることを特徴としている。今後の展望としては,地理学と生態学のスケールに関する議論を相互に参照しつつ,資源管理や環境ガバナンスのスケールに注目した実証研究を積み上げることで,PE 論独自のスケール論を発展させていくことが期待される。

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© 2021 一般社団法人 人文地理学会
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