海外では健康格差の要因としてオープンスペースへの近接性と個人レベルの貧困度(所得など)との交互作用効果を検証した研究が進められている。これらの研究では個人レベルの貧困度が高い者がオープンスペースへの近接性の低さによる負の健康影響を受けやすく,それが健康格差に寄与しうると報告している。一方で,オープンスペースへの近接性と地域レベルの貧困度の交互作用効果に着目した研究は限られている。本稿では居住地の地域レベルの貧困度が高い場合,オープンスペースへの認知的近接性の低さによる負の健康影響を受けやすいという仮説を立てた。そして大阪府内の人口集中地区を対象に,郵送質問紙調査によって得たデータを用いて次の検討を行った。まず主観的健康感,主観的幸福感および運動の頻度における健康格差の有無を検討した。そして上記の2つの交互作用効果のいずれが各健康指標への影響が大きいかを分析した。結果として,主観的健康感と主観的幸福感における健康格差がみられた。また主観的健康感においてオープンスペースへの認知的近接性と地域レベルの貧困度との交互作用効果の方が,個人レベルの貧困度との交互作用効果と比べ影響が大きかった。主観的幸福感と運動の頻度にはこうした統計学的な関係はみられなかった。主観的健康感における健康格差の縮小への政策的含意として,地域レベルの貧困度が高い地域の居住者の認知的近接性を改善する必要性が示された。