2025 年 77 巻 2 号 p. 147-167
本稿では,徳島県上勝町において有償運送(旧公共交通空白地有償運送)の実施を可能にする PVD(Paid Volunteer Driver=有償ボランティアドライバー)の参加について,地域における彼らのライフスタイルの諸側面に着目して検討した。運営事務局の ZWA は,PVD への収益配分,他事業との兼務や設備投資の抑制により,運営の持続性を高めてきた。このもとで事務局は,PVD の協力関係や信頼関係を得ながら,VC(ボランティアコーディネーション)として住民の日常生活と密接した PVD の募集や配車を実践し,PVD に過度な負担のかからない運転環境を創出してきた。これにより厚みのある運転手層がつくられ,運営の冗長性が高められてきた。PVD は,町内で営む日常生活の空き時間を使い,主に移動に困った人の支援や現金を獲得する仕事として,無理なく運転を実践してきた。また PVD は,有償運送の制度内容,居住地域の地理的物理的条件,居住地域の社会経済等から,運転の実践における居住地域を様々に位置付けていた。PVD はこうした様々な意図をもって実践する運転に対して,居住地域における他者支援,地域を舞台としたビジネスのツール,それらに関連した交流手段など,地域における日常生活や生き方をよりよくするという意味を各々に見出していた。徳島県上勝町では,PVD の日常生活や生き方と結びついた参加が束ねられつつ,移動環境や住民生活の向上に資する有償運送が実施されていた。