抄録
多形腺腫由来癌では腺腫被膜を基準とした組織学的進展度が予後因子として有用であることが知られているが,現行のTNM分類において,唾液腺腫瘍のT因子には被膜浸潤の程度は反映されていない。今回,多形腺腫由来癌31例において組織学的進展度を評価し,予後予測因子としての有用性に関してT分類との比較検討を行った。pT1,2症例中25%,50%は組織学的に被膜外浸潤癌であり,それぞれ25%,30%で術後遠隔転移を,25%,20%で腫瘍死を認めた。一方でpT3症例の41.7%は非浸潤癌であり,術後再発転移を認めなかった。さらに腫瘍径や術後治療の有無に関わらず,組織学的進展範囲が微小浸潤までに止まる症例は予後良好であり,全生存率,無再発生存率に関してT分類と比較してより有効に予後を反映していた。多形腺腫由来癌の治療に際しては,組織学的進展度評価に基づいた術後補助療法選択や経過観察が必要であると考えられる。