抄録
シスプラチン初回投与で両側重度難聴をきたし,人工内耳手術を行なった症例を経験した。症例は69歳男性で,肺癌の術後化学療法としてシスプラチンとビノレルビンを投与した。シスプラチン投与7日目で難聴を自覚し,投与9日目の純音聴力検査は両側聾であった。同時に腎障害を発症したが改善した。両側重度難聴の治療としては,補聴器の装用効果がないため人工内耳埋め込み術を行ない,音入れ直後から聴取能は良好であった。本例を通してシスプラチン難聴は,投与量が累積された後のみでなく,一回投与で両側重度難聴をきたすことが示唆された。シスプラチン難聴に関連する遺伝子が解明されることで,投与後の聴力予測が可能となれば,安全な癌治療計画の一助になると考えられている。現時点では,難聴発症の予測や予防する方法はないため,シスプラチン初回投与後に両側重度難聴をきたし,人工内耳手術が唯一の治療法となる症例がありうると考えられた。