抄録
我々は, 上顎癌手術後の無歯顎症例の口蓋欠損に対し, ボリュームの大きい腹直筋皮弁を使い, 顔貌変形が少なく顎義歯の安定, 維持装着を考慮した再建方法を試みた。1997年からの2年間に6症例にこの再建方法をおこない, 再発で死亡した1症例を除く5症例に新しい形態の顎義歯を装着できた。再建は腹直筋皮弁を上顎欠損部に頬側から鼻中隔上方に折り曲げるように充填して縫合する。その際, 残存する口蓋に直接皮弁を縫合して欠損部を完全閉鎖するのではなく, 口蓋正中部にスリット状の交通路を形成する。顎義歯は, そのスリット部を上方に延長し, 欠損部前後の凹部を維持として利用する形で栓塞部を付与して, 維持安定を図る。この結果, 従来の形態の顎義歯と同等の安定性が得られ, また機能評価の上でも良好な成績を得た。