重度尺骨神経麻痺では腱移行による示指外転再建が行われるが,拮抗筋が機能していないことが問題である.示指外転再建後に内転機能を再建した報告はこれまでにない.そこで,示指外転に内転再建を追加治療した後に後療法を実施し,洗顔動作をはじめとする機能改善を得た2症例について報告する.後療法のプロトコルは独自に構築し,つまみ力,握力,Hand20,Moberg pick-up testを評価した.トリガーアクションとして,示指外転運動は中指,環指,小指屈曲位で示指伸展あるいは母指橈側外転を,示指内転運動は小指MP関節屈曲位で小指伸展を行わせ,移行腱が効果的に運動でき癒着を防止できた.示指のSwitchingに難渋したため,術前後に頻回な指導が必要と考えられた.2症例とも両手で水をすくう洗顔動作が可能となり,Hand20の値も全般的に改善した.Switchingに時間を要するが,示指の運動制御向上とADL改善を希望する患者に対して考慮すべき治療法と考えられる.