抄録
1971年9~10月に高知県の四万十川河口で捕獲された全長70cm前後の下りウナギについて, 卵巣卵の成熟状態を調べるとともに同年11月22日から1972年3月末までシナホリン・DESおよびDPEなどを注射して成熟促進の状態を研究し, 次の事項を明らかにした.
1.下りウナギの卵巣卵の多くは直径0.3mm台で油球期に属するが, なかには卵黄球期に入った0.4~0.5mm台の卵もかなりあり, 最大の卵径は0.59mmであつた.
2.DPE・シナホリン区では, 4尾のうち3尾までが実験打切りの3月末日まで生存し, 成熟促進の効果が著しかった.とくに, 2個体では多くの卵の卵径が0.6mmから0.8mmになり, そのうち1個体では0.95mm以上, 第三次卵黄球期に達した卵が7%あまりもあった.
3.DES・シナホリン区では4個体とも実験途中ですべて死亡したが, 生殖腺重量は対照区のそれの3倍前後になり, 第2次卵黄球期に達した卵もあった.
4.成熟が進むと肝臓が肥大してくるが, とくにDES・シナホリン区で著しく, 体重に対する割合が4.1~8.2%に達した.ところがDPE・シナホリン区では3.0~4.4%であり, 完熟まで魚体を生かすにはこの値を4%またはそれ以下におさえる必要があると思われる.