1983 年 30 巻 3 号 p. 275-283
魚類養殖において, 交雑や選抜により利用価値の高い, また環境抵抗性の強い優良品種を作り出すことが試みられてきた.コイ, フナ (キンギョ) では昔から経験的手法によって優良品種が作られ, 近年に至ってサケ・マス類とともに活発な研究も行われるようになり, 多くの知見が集積されている (鈴木, 1966a, b, 1979).しかし海産魚については, 主としてタイ科 (原田, 1964;原田ほか・1966;原田ほか, 1968;熊井ほか, 1971), イシダイ科 (原田ほか, 1970;原田・熊井ほか, 1971;原田, 1974) ・イシダイとクロダイ (原田ほか, 1969), ブリ属 (原田・熊井ほか, 1971;原田・村田ほか, 1971;原田ほか, 197.) およびトラフグ属 (藤田, 1966) での交配が試みられてはいるが, それら交雑種の形質や養殖品種としての評価に関する報告はほとんど皆無である.
筆者らは, タイ科 (Family Sparidae), ヘダイ亜科 (Subfamily Sparinae), ヘダイ属 (Sparus) のヘダイSparus sarba (Temminck et Schlegel) と, 同亜科クロダイ属 (Acanthopagrus) のクロダイAcanthopagrus schlegeli (Bleeker) の属間雑種の形態や, 成長, 低水温・低塩分耐性などの養殖適性について, 対照魚種との比較を行った.その結果, 交雑種は多くの形質でヘダイに酷似し, 母系遺伝が強いことが明らかになったので, その概要を報告する.