初期のう胚および発眼期にあるカタクチイワシ卵の卵門を走査型, 透過型電顕で観察した.卵膜は薄い外層と厚い内層より成り, 卵付着装置はみられない.内層は明暗交互に重なる薄層構造を呈するが, 放射管を持たない.楕円形の卵の一端は僅かに表面が隆起し, その中央に卵門がある.卵門周辺の隆起には少数の比較的明瞭な小孔がある.卵門は前庭を持たず, その内部は渦巻き状構造物で充たされている.この構造物は未受精卵の卵門管壁を作っていた卵膜内層の膨張によって生じたものである.膨張は発生初期に起るらしく, 固定処理によるものではない.卵門およびその周辺部の形態から浮性卵の魚種の同定が可能であると考えられる.