1990 年 37 巻 1 号 p. 64-68
アシロ科タライタチウオ属のPorogadus milesは大西洋両岸に広く分布し, 近年はインド洋からも報告されている.日本からはAmaoka (l983) がPorogadus sp.として本種を発表したが, その後さらに4個体が日本近海で採集されていることが判明した.これらをP, milesの完模式標本を含む西部大西洋産の標本と直接比較し, インド洋産の標本との比較を文献に基づいて行った.その結果, 本種が日本近海のl, 500-4, 000mの深海底に生息することを確認した.本種にその強い頭部棘に由来する新和名コワトゲタライタチウオを提唱する.日本産の標本は眼径及び頭部と体部の色彩が大西洋産の標本とは異なるが, インド洋産の標本とは前者が重複し, 後者もより似ている.計数形質では, 背鰭と啓鰭の鰭条数にかなりの変異が認められているものの, 3地域の数値に明瞭な差はない.本種の頭部棘を詳細に検討し, 涙骨の前方上縁部に強い数本の棘を認めた.本種と同様に強い頭部棘をもつP. nudusはこの骨に棘が無いことから, この棘は本種の新たな標徴形質と考えられる.