抄録
日本産硬骨魚類30余種の脳下垂体の形態と内部構造を観察して、次のような結果を得た。
1. 硬骨魚類の脳下垂体も、基本的には4要素から構成されており、口板外胚葉に由来する腺状部は、 (1) 隆起部、 (2) 主葉 (隆起部と主葉を合わせて前葉) 、 (3) 中葉で、間脳底に由来する組織は (4) 神経葉である。すなわち隆起部の独立性を認めて、STENDELL (1914) のいわゆるÜbergangsteilを廃し、これが主葉である事を提唱する。
2. 硬骨魚類の脳下垂体の形態や構造は、一般に近縁な種類は互いに良く似ている。腺状部の大きさは大体中葉≧主葉>隆起部である。
3. 隆起部は、充実した組織で色調は淡く、弱酸好性や色素非好性細胞が優勢な部分である。
主葉は、酸好性細胞の単層の索が、背方を著しく上・下行する部分と、腹方の大形多角状の塩.基好性や色素非好性細胞の大塊とから成る。主葉には、α, β, γの3つの細胞型の他に、カーミン好性細胞が認められる。
中葉は、主として弱酸好性細胞から構成されている事が多く、房状や葡葡状の配列をしており、神経葉との関係が深い。
4. 神経葉ば、大抵脳下垂体の背方から入り、太い神経幹となつて前葉を通過して中葉へ達する。その途中に、多数の神経繊維の分枝を派生させているが、中葉に囲まれた神経葉の本体には神経膠質が発達している。下垂体索の附近に、いわゆるHERRING氏体が存在することがある。
5. 大型成魚の脳下垂体には、大小の空胞が諸処に発達している。