産業動物臨床医学雑誌
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症例報告
牛伝染性リンパ腫罹患黒毛和種牛における合成副腎皮質ホルモン製剤単回投与の臨床症状および細胞学的・病理組織学的検査への影響
中村 正明 澤向 豊Gerry Amor Camer阿部 隆司篠川 有理米山 隆
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2024 年 14 巻 5 号 p. 221-227

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抄録

農場で飼養されている黒毛和牛種牛(27カ月齢,去勢)に元気消失,食欲廃絶,眼光鈍,削痩,体表リンパ節および腸骨下リンパ節の腫大が認められたため,管内家畜保健衛生所に病性鑑定の依頼があった.第1病日に左浅頸リンパ節の針穿刺吸引(Fine Needle Aspiration:FNA)による細胞採取を行い,その塗抹をメイグリュンワルド・ギムザ染色した.その結果,光学顕微鏡検査による大小不同,有糸分裂の顕著な異形リンパ球像所見を得た.また,酵素免疫測定法により抗牛伝染性リンパ腫ウイルス抗体が陽性を示したことから,地方病型リンパ腫(Enzootic Bovine Leukosis:EBL)を疑った.第2病日に全身症状の緩和を目的に合成副腎皮質ホルモン製剤であるデキサメサゾン10 mgを筋肉内投与したところ,元気,食欲の改善がみられた.第1病日および第7病日の体表リンパ節のサイズに変化はなかった.第7病日に病理解剖して,体表リンパ節割面のスタンプ標本を作製するとともに,組織片の採取を行い,病理組織学的検査を実施した.その結果,左浅頸リンパ節スタンプ標本は第1病日の同リンパ節FNA標本と同様に大型と中型のリンパ球が50%以上を占めていた.体表リンパ節の病理組織学的検査では,リンパ節の固有構造が異型リンパ球に置換されていたことから,本症例をEBLと診断した.動物福祉の観点から本症例に投与したデキサメサゾン単回投与は鑑定殺するまでの間の臨床症状緩和に有効であり,さらに細胞学的,病理組織学的診断にも大きな影響を与えないと考えられた.今後,EBLの確定診断までの症状緩和に必要な投与条件等の検討をさらに重ねたい.

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© 2024 日本家畜臨床学会・大動物臨床研究会
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