産業動物臨床医学雑誌
Online ISSN : 2187-2805
Print ISSN : 1884-684X
ISSN-L : 1884-684X
短報
北海道上川管内の酪農家および獣医師を対象とした乳熱予防に関するアンケート調査
八木沢 拓也福田 卓巳大倉 徳太
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 3 巻 4 号 p. 181-186

詳細
抄録

乳熱は,分娩時の泌乳開始に伴うカルシウム(Ca)要求量の増大によって発症する代謝性疾患として広く知られている.これまで本疾病の予防には,分娩前のCa制限飼料の給与,ビタミンD3(VD3)の投与,Dietary Cation Anion Difference(DCAD)飼料の給与および分娩後のCa製剤の経口投与などが行われてきたが,その効果はかならずしも十分なものではなかった.また近年,一頭あたりの乳量は年々増える傾向にあり,乳熱の発症リスクはさらに高まっていると考えられるが,実際のところ乳熱の発症はそれほど増加していない.そこで今回,乳熱予防に関する酪農現場の現状を把握することを目的として,北海道でも高泌乳地域にあたる上川管内において酪農家および獣医師に対するアンケート調査を実施した.調査対象は管内から無作為に抽出した82戸の酪農家および管内所在の8診療所に所属する全てのNOSAI獣医師41名とし,アンケート用紙に基づいた聞き取り調査ないし留置き調査を行った.酪農家および獣医師に対する質問は各5問である.酪農家へは,①プロフィール ②実際に取り組んでいる予防法 ③予防の満足度 ④分娩後Ca製剤投与依頼の有無 ⑤重要と考える周産期疾病の順位を,獣医師へは,①経験年数 ②効果の高いと感じた予防法の順位 ③予防法の満足度 ④乳熱予防の指導有無 ⑤分娩後Ca製剤投与依頼の有無の回答を求めた.調査の結果,多くの酪農家が分娩前にCa制限飼料の給与やVD3の投与といった従来の予防法に加えて,分娩後にCa製剤を静脈内もしくは皮下に投与していることが明らかとなった.また,この予防効果に対する酪農家の満足度は,経済的な損失が大きく,予防が難しい繁殖障害,乳房炎,跛行などの疾病に比べて概ね高かった.獣医師もこれらの組み合わせによる予防効果が高いと感じ,酪農家に対し,分娩後の乳牛にCa製剤を非経口的に投与することを指導していることが分かった.分娩後のCa製剤非経口投与は乳熱を予防している可能性が示唆された.

著者関連情報
© 2012 日本家畜臨床学会・大動物臨床研究会
前の記事 次の記事
feedback
Top