生産現場において生じる問題は,単独ではなく複数の要因が相まって影響していることが多いため,リスク因子を正しく抽出することが非常に困難である.繁殖疫学とは,産業動物の生産現場における問題点を広い視野から明らかにする手法であり,多量の生産情報から有益な知見を得るための手法である.繁殖疫学では,畜種個体だけに限局せず,複数の農場や群を対象とし,生産性を阻害する問題の発生頻度,分布,要因を分析する.近年,飼養頭数の大規模化,集約的な飼養管理への変化に伴い,生産農場では生産記録を電子ファイルとして記録・保持し,大規模なビックデータを構築するようになった.しかしながら,生産者や管理獣医師などは,これらの生産記録の分析および活用に関する技術および時間がないため,畜産分野において,生産記録の活用はまだまだ未成熟である.しかしながら,今後,更なる飼養形態の変化,国際競争の激化,飼料や資材の高騰が予想される中,生産性向上に結びつく「科学的数値に基づいた飼養管理」を確立することが重要である.本論文では,繁殖疫学の手法を用いて,現場のデータから生産性の改善および向上に結びつく知見を得る手法および活用法に関して,ブタおよびウシにおける研究事例を報告する.