法と心理
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司法臨床の可能性 : 弁護士の立場から(<特集>「司法臨床」の可能性:司法と心理臨床の協働をめぐって)
中川 利彦
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ジャーナル オープンアクセス

2011 年 11 巻 1 号 p. 21-25

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抄録

家族間紛争の場合、当事者間に感情的対立が激しいことが多く、単に法律を適用するだけでは真の紛争解決にならず、当事者の満足は得られないから、弁護士が関与する場合も、常に心理面への配慮が必要かつ重要である。しかし従来この点は弁護士全体の共通認識になっておらず、近時ようやくリーガル・カウンセリングなどの考え方が主張されるようになった。一方家庭裁判所は、もともと家族間紛争と少年事件のいずれについても司法機能と臨床的機能の両面でのアプローチと協働により対応することが期待されているにもかかわらず、近時、臨床的機能の後退が見られる。その原因としては、事件数の著しい増加で調査官が多忙を極めていること、最近の一部調査官の資質の問題、そして家事事件に関しては当事者に対する手続保障を盛り込む方向で進められている家事審判法の改正の先取り、少年事件に関しては少年法改正の影響などが考えられる。2001年以降の司法制度改革は、より身近で、早くて、頼りがいのある司法をスローガンに進められたが、紛争解決と心の問題が置き去りにされている。司法が利用者のニーズに応えて紛争の満足的な解決を図るためには、一定の分野において司法と臨床との協働が的確に行なわれることが重要である。

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© 2011 法と心理学会
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