日本家畜管理学会誌
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搾乳牛の行動による低投入型放牧酪農の家畜福祉性評価
佐藤 衆介西脇 亜也大竹 秀男篠原 久
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キーワード: 乳牛, 行動, 放牧, 低投入, 家畜福祉
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1999 年 34 巻 3 号 p. 95-104

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抄録

岩手県の低投入型放牧酪農家2戸(N牧場、K牧場)の家畜福祉性を、主として乳牛の行動の調査結果に基づき、乳生産や疾病記録を加味して評価した。両牧場とも急傾斜地にあり、面積はN、K牧場とそれぞれ46ha、40haで、改良草地放牧地、野草林間放牧地および採草地からなっていた。N牧場には、加えて採草放牧兼用地があった。両牧場ともまき牛繁殖で、放牧地での自然分娩であった。N牧場では2ヵ月齢までの自然哺乳、K牧場では3ヵ月齢まで人工哺乳であった。両牧場ともに、無施肥による放牧地管理をし、フスマやビートパルプといった農産副産物の他には、濃厚飼料は無給与という低投入型で、牛乳を4,000kg/頭/年程度生産していた。N牧場の乳牛では、全行動レパートリーが出現したが、6月の食草・樹葉摂食行動は1日当たり平均11.0時間となり、それは過去の報告例の上限に近い水準であった。強制離乳子牛1頭に模擬舌遊び行動が観察された他には、異常行動は観察されなかった。K牧場では、人工哺乳のため母子行動は発現できなかった。K牧場での全摂食行動(食草、樹葉摂食、給与飼料摂食)は6月および7月には昼夜を問わず間断的にみられ、それぞれ1日当たり平均52時間および82時間であった。しかし、9月の食草・樹葉摂食時間は2.8時間と極端に短くなり、特にシバヘの依存が急激に低下した。N牧場では1994年の治療回数は2回で、捻挫と子牛の奇形による難産が理由であった。K牧場では1995年には下痢子牛3頭、後産停滞2頭、起立不能症1頭で治療を要した。両牧場とも、ウシの疾病率が低く、さらに異常行動は1頭を除き発現せず、行動レパートリーのほとんどが出現し、各行動時間配分も通常範囲内にあり、行動的にもほぼ正常であり、家畜福祉レベルは平均的な酪農家に比べて高いと判断された。しかし、N牧場では、強制離乳された子牛のストレス性の軽減が、K牧場では晩夏以降の草生の改善が、さらなる家畜福祉性改善に必要であると示唆された。日本家畜管理学会誌、34(3) : 95-104、1999 1998年4月16日受付1999年1月7日受理

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© 1999 日本家畜管理学会
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