2017 年 58 巻 4 号 p. 317-325
本研究では聴覚障害児の韻律情報の活用について発話と聴取の両面から検討を行った.対象児は関東地方の聴覚特別支援学校および難聴通級指導教室に通う聴覚障害児31名(平均聴力レベルの平均86.2 dBHL(SD=23.4))である.各対象児に対し2通りの意味解釈が可能な統語的曖昧文をそれぞれの意味で発話させた.その発話についての聴者による韻律情報の活用の程度に関する聴覚印象評価(韻律明瞭度)に影響を与える音響成分(F0やポーズなど),韻律明瞭度と聴力レベルとの関係について,そして発話および聴取による韻律活用との関係について検討を行った.その結果,統語的曖昧文の言い分けにはF0とポーズの変化が関係していること,韻律の言い分けには低周波数帯(250 Hz)の聴力レベルが関係すること,また,平均聴力レベル90 dBHLが境界値となることが示された.聴取可能な音響成分によって聴覚障害児なりにF0やポーズを駆使して統語境界を発話のなかで明示していることが示された.