音声言語医学
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総説
  • ―IALPの概観を通した課題―
    Dobrinka Georgieva, 宮本 昌子
    2024 年 65 巻 2 号 p. 61-76
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル 認証あり

    背景:1924年にEmil FroeshelsによってInternational Association of Logopedics and Phoniatrics(IALP)が設立されて以来,コミュニケーション科学・障害の分野は,独立した科学的・臨床的学問分野として正式に位置づけられるようになった.
    目的:ブルガリアと日本における言語病理学の主要な歴史的段階を要約し,特にIALPがこれらの国々における言語病理学の発展に与えた影響に重点をおく.
    方法:伝記的,民族学的,図像学的,文書史的,専門的な文献資料の分析を含む歴史的アプローチを用いた.ブルガリアと日本における言語病理学の発展の異なる段階を概説した.
    結果:ブルガリアと日本の言語病理学のルーツは19世紀初頭にあり,聴覚障害者のための特殊教育と関連していた.両国の言語病理学の研究は,吃音や関連する流暢性障害に焦点が当てられ始まった.ブルガリアの言語治療学(logopedics)は,ウィーン,ベルリン,プラハ,モスクワの学派に代表されるように,ヨーロッパの影響を強く受けている.日本の言語病理学はヨーロッパの学派だけでなく,アメリカの視点からも影響を受けている.20世紀半ばには,両国ともに,耳鼻咽喉科学と音声医学の影響を強く受けるようになった.
    結論:ブルガリアと日本における言語聴覚障害学の基本的側面は,ヨーロッパの伝統による影響を受けており,その発展は第二次世界大戦後に加速した.この数十年の間に,科学的概念と専門職の普及が,各国の教育,経済,文化,歴史的伝統に従って両国に拡大した.

原著
  • ―信頼性と妥当性の検討―
    青木 瑞樹, 宮本 昌子
    2024 年 65 巻 2 号 p. 77-87
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル 認証あり

    吃音者の自己受容はQOLの向上にポジティブな影響を示すことが示唆されているが,これを単一の概念として量的に測定可能な尺度はなく,既存尺度の修正や類似概念を使用して調査が行われている.本研究では,吃音者の自己受容を測定する尺度を開発し,その信頼性・妥当性を確認することを目的とした.吃音の心理的・社会的側面を含む特性を包括的に測定可能な尺度項目を提案し,吃音者に実施した.分析対象となった100名の回答を分析した結果,16項目3因子構造の尺度が完成した.また本尺度は高い信頼性(内的整合性・時間的安定性)と妥当性(内容的妥当性・基準関連妥当性・構成概念妥当性)が確認された.本尺度は対象者の主観的な吃音の程度や過去の支援・介入経験によって平均点に差異が見られることから対象者の属性を踏まえて慎重に解釈するとともに,単発的な使用ではなく縦断的な評価指標としての活用が効果的であることが考えられた.

  • 田口 亜紀, 西岡 未央, 長谷川 久美世
    2024 年 65 巻 2 号 p. 88-93
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル 認証あり

    健常人におけるオンラインでの集団音声治療の効果について,Vocal Function Exercise(VFE)短縮版とWater Resistance(WR)の手技を用いて検討した.対象は健常成人40名(男性20名,女性20名)とし,年齢は19〜22歳(平均年齢20.9歳)であった.オンラインでの訓練指導回数でVFE 1回群,VFE 2回群,WR 1回群,WR 2回群の4群に分けた.音声指導は1セット20分で,オンライン上で5人を1グループとして音声治療を施行した.自主訓練は15日間とした.検討項目はMPT,生理的声域,音響分析(APQ,PPQ,HNR),自覚的評価(VHI,V-RQOL)とし,訓練前後で比較した.結果,VFE短縮版とWR群どちらも音声機能の改善を認め,オンライン音声治療は対面訓練の代用方法として有効であると考えられた.VFE 2回群ではMPT,APQ,HNR,VHIにおいて他群よりも有意な改善を認めた.オンライン音声治療では,VFEは定期的な音声治療の介入が必要で,WRは初回のみの指導で治療効果が得られることが考えられた.今後は,音声障害症例や,VFE・WR以外での音声治療手技を用いたオンライン音声治療の検討を行いたい.

  • ―国内文献を対象として―
    飯村 大智, 青木 瑞樹, 角田 航平, 石田 修, 宮本 昌子
    2024 年 65 巻 2 号 p. 94-102
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル 認証あり

    確実性の高い吃音の臨床報告のための示唆を得ることを目的とし,吃音の臨床報告における実施の質に関する記載状況について調査した.対象文献は1980年から2022年までに本文が日本語で記載された学童期吃音児の臨床報告であり,検索データベースはCiNiiと医中誌を使用した.合計43件の文献が適格性基準を満たした.海外の先行研究を参考に作成した40項目の実施の質に関する内容について,文献ごとに記載の有無を評価した.質の記載は全体として少なく,報告されやすい傾向にあったものは「主要評価項目(81%)」「介入プロトコルの説明(63%)」「実施した介入量:回数(60%)」「介入の実施者(53%)」「訓練室の場所と設定(35%)」などであった.実施の質に関した内容が適切に記載されることで,効果推定値の確実性が高いエビデンスの集約が可能になると考えられる.

  • 岩城 忍, 高橋 美貴, 戸田 幸歩, 山下 俊彦, 入谷 啓介, 四宮 弘隆, 丹生 健一
    2024 年 65 巻 2 号 p. 103-107
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル 認証あり

    シャント発声における過緊張性発声症例に対し,有喉頭者に用いる音声治療手法であるwater resistance therapy(WRT)を用い,有効であった例を報告する.症例1(喉頭全摘)はWRT施行後3ヵ月で最大発声持続時間(MPT)は0秒から10秒に延長,課題文章の音読所要時間は4.1秒となった.症例2(下咽頭喉頭全摘・遊離空腸再建)はWRT施行後2ヵ月でMPTは5秒から15秒に延長,音読所要時間は9.2秒から4.3秒に短縮した.2例ともWRTにより新声門および新声門上部に適切な緊張と呼気流が得られたと思われる.気管食道シャント発声における新声門振動は通常の声帯振動と類似していることから,シャント発声での過緊張性発声においても,有喉頭と同様の音声治療手法が利用できる可能性があると考えられた.

症例
  • 進藤 美津子, 加我 君孝
    2024 年 65 巻 2 号 p. 108-115
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル 認証あり

    1歳3ヵ月時に単純ヘルペス脳炎後遺症により両側聴皮質・皮質下,感覚性言語野に損傷をきたし,重度の聴覚失認をきたした男性症例の37年間に及ぶ長期経過について報告した.成人の聴覚失認との相違,本邦小児聴覚失認報告例の発症時後の内言語形成の困難な状況を中心に,医療,教育,福祉の支援について取り上げた.本例は発症以来重度の語聾により,音は聞こえていても音声言語の認知・理解・表出が全く不可能となり,言語聴覚士による身振りや手話指導,ろう学校幼稚部から高等部にいたるキュードスピーチ,指文字,手話,文字など視覚を中心とした教育を受け障害等級聴覚障害2級と診断された.しかし,てんかんの小発作が繰り返えされ,末梢性聴覚障害児と比べて言語力の獲得は著しく低下していた.ろう学校高等部卒業後は引き続き医療のケアを受けている.現在は身体障害者として地域のデイケアセンターに通所し,職業指導による軽作業に取り組んでいる.

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