痙攣性発声障害(SD)に対する治療は,ボツリヌス治療が第一選択と位置づけられているが,患者ごとの重症度評価や治療効果を評価するためには,客観的な音声評価が必要である.本論文では,ボツリヌス治療後の音声評価の現状と,われわれの新たな取り組みについて述べた.自覚的評価にはVHIやV-RQOLなどが,他覚的評価にはGRBAS,CAPE-V,モーラ法,音響分析などがある.しかし,他覚的評価では必ずしもSDの病態を直接反映しないことや,評価が煩雑なことなどの課題がある.また,治療後の評価時期により,自覚的指標と他覚的指標は相関しないこともある.このため,自覚的評価と他覚的評価の両者を経時的に評価することが重要である.そこでわれわれはスマートフォンを活用して,医療機関を受診することなく音声解析を行うシステムの開発に取り組み,治療後の音声の改善と経時的な変化を確認した.
小児人工内耳(cochlear implant; CI)手術は,高度から重度の聴覚障害児に対する音声言語発達を促進する有効な治療法であり,近年,その適応年齢が世界的に早期化している.本総説では,米国および日本の手術適応基準の変遷,各国のCIレジストリデータから明らかとなった手術早期化の現状,生後12ヵ月未満におけるCI手術の安全性と有効性,そして早期化に伴う課題について論じる.脳の可塑性が高い時期に聴覚刺激を提供することで,有意な音声言語発達および神経発達の向上が期待される一方,早期手術の実施には正確な聴覚診断や家族支援体制の整備が不可欠である.また,重複障害が後に顕在化するリスクや,乳児期の補聴器効果評価の困難さも指摘される.今後は多職種連携を強化するとともに,さらなるデータの蓄積に基づく適応基準の明確化と臨床実践の推進が求められる.
【目的】母子保健事業内開催のST指導を利用した児の構音障害の特徴と,初回相談年齢,利用したきっかけ,ST指導終了後の転帰の実態を明らかにする.
【方法】宮崎県内の三市町村合同の母子保健事業内で,9年間に言語聴覚士(ST)が評価・指導を実施した幼児81名を対象とした.乳幼児健診とST指導の記録を後方視的に検討した.
【結果】発達途上の誤りは53名に,語の音の配列の誤りを16名,特異な構音操作を8名,言語発達遅滞の併発を4名に認めた.就学で本事業が終了になった児10名の平均指導回数は,本事業内で指導を終了した群や病院訓練・他事業に移行した群,対象期間以降も本事業のST指導を継続した群の平均指導回数と比較して多かった.
【考察】対象児の構音障害は,発達途上の構音の誤りが6割以上を占めた.ST指導は,乳幼児健診・健診以外の双方をきっかけに利用され,就学後も継続的支援が必要な児が存在した.STは多彩な構音障害の評価・訓練とともに,就学前・就学後の多職種・多機関との連携が必要と考えられた.
本研究の目的は,幼児期に言語発達遅滞を伴う注意欠如多動症(ADHD)児の対人コミュニケーション行動の特徴を明らかにすることである.幼児期に言語発達遅滞と診断されたADHD児および自閉スペクトラム症(ASD)児36名を,ADHD群9名とASD群27名に分け,言語聴覚療法開始時に実施した対人コミュニケーション行動観察フォーマット(FOSCOM)の検査結果を両群間で後方視的に比較した.その結果,ADHD児とASD児の対人コミュニケーション行動は類似した特徴を示したが,逸脱の程度とFOSCOMの一部に違いを認めた.また,ADHD児のFOSCOMの領域A得点と言語表出に有意な負の相関を認めたが,ASD児では有意な相関を認めなかった.したがって,幼児期に言語発達遅滞を伴うADHD児の対人コミュニケーション行動は,言語発達遅滞の影響を受けやすく,FOSCOMの報告などで過小・潜在的な傾向を示すことが示唆された.
MTDやAdSD,吃音との鑑別を目的とした音声治療を施行し,喉頭所見や発声機能の改善は認めたものの,自覚評価の改善が乏しかったため,最終的にMTDと併存した心因性吃音と診断された1症例について経過を報告する.
症例は,46歳,女性で,会話の話し始めに喉がつまって声が出しにくくなったとの訴えで当科を受診された.喉頭所見では,発声時に披裂部と喉頭蓋基部の接近と左仮声帯の内転を認めた.声の問診では,病院では声の調子は良いが,場面によって声のつまりが出現し,ひとり言や歌では声の出しにくさを感じることはなかった.MTDに対して音声治療の運びとなり,音声治療を5セッション(6週間)実施後,喉頭所見,発声機能の改善を認めたが,VHIでは変化を認めなかった.
MTD症例では,AdSDや吃音が共存している場合があり,喉頭所見,発声・発話症状,音声治療の反応性を考慮し,注意深く評価する必要がある.
BONEBRIDGE®(以下,BB)は2020年に日本耳科学会で適応基準が定められた.2021年9月に保険収載されて以降,当科では若年から高齢まで3例を経験した.
症例は1)両先天性混合性難聴の14歳女性,2)両外耳道閉鎖による伝音難聴の41歳男性,3)両慢性中耳炎術後の混合性難聴の81歳男性.補聴器以外の手段を希望され,全身麻酔下に外視鏡(ORBEYE®)を用いて手術を施行した.症例1,2)は術後経過良好であるが,症例3)は加齢による明瞭度の低下もあり聴取能の改善につながらず,装用を中止している.
なお,側頭骨3D-CTにて推奨の削開部位を作成し,症例1)は耳後部切開,症例2)は小耳症と外耳道閉鎖のためS状切開,症例3)は慢性中耳炎術後でretro-sigmoidで植え込みを行い,側頭骨3D-CTは植え込み部位を決定するにあたり参考になった.
BBは従来の補聴器より装用感が良好で術後の満足度は高いが,補聴器装用下の明瞭度が不良な症例では十分に装用効果が得られない可能性があるため,手術適応を検討する必要がある.