2021 年 62 巻 2 号 p. 91-98
非語の音読で文字列全体の音読を試みると語彙化が生じ,自分でその誤りに気づき,いったん自己修正を試み,逐字読みによって正しく音読できたにもかかわらず,再度語彙化錯読する症状を呈した失語症例に対し,各種言語検査の結果に基づき分析した.仮名1文字の音読における反応の遅延とモーラ合成の成績低下から,非語彙経路における文字―音韻変換処理の効率性の低下および出力バッファ内の音韻統合の問題が疑われた.語彙化錯読については,非語彙経路と比較して相対的に活性度が高まった語彙経路の文字列レキシコンと音韻列レキシコンの活性化が関与していると考えられた.また,逐字読みにより正しく音読できた点については,語彙化を抑制して非語彙処理を行えたためではないかと考えられる.症例が非語全体を再度音読すると,最初の語彙化と同様に,相対的に活性度が高まる語彙経路において実在語表象が誤って活性化され,二度目の語彙化が生じたと推測された.