助詞の産生に多くの誤りを示したBroca失語3例とWernicke失語1例について, 文の発話における動詞の処理能力を検討した.方法は情景画を提示し, 談話の発話と1個の動詞を用いた文の発話をさせた.
結果は次のとおりであった. (1) 4症例は文の発話において22.8~85.3%の動詞を誤った. (2) 動詞の誤りには, その動詞が取る意味役割の名詞を産生できているものとそれを正しく産生できていないものがあった.症例全員に両方の誤りが認められた. (3) 個々の動詞が取る意味役割の名詞を産生する誤りは, メッセージの決定, 動詞の選択, 動詞が取る意味役割の同定の各レベルの障害によって生じていると考えられた.このうち, メッセージの決定困難による誤りはWernicke失語例だけに認められた.動詞の選択困難と意味役割の同定困難による誤りは症例全員に認められたが, その比率は症例によって異なった.これらの動詞の処理障害が4症例の文の基本構造の誤りを引き起こしていると考えられた.