抄録
濃化異骨症は, 低身長, 劣成長, 指趾の短小, 爪の扁平化, 下顎角の鈍化, 骨折しやすいなどの臨床像を特徴とする稀な常染色体劣性遺伝性疾患である. 我々は, 濃化異骨症に下顎骨骨髄炎および病的骨折を併発した患者の下顎骨区域切除, プレート再建術の全身麻酔を経験した. 患者は40歳の男性で, 体格は小さいが栄養状態は良好であった. 患者の足指・手指は短縮し, 前額は突出して小顎症であった. 口腔内所見は, 上下顎の歯列弓は狭小で, 口蓋は浅く, 舌背が軟口蓋に接していた. 最大開口域は3.5cmでMallampatiの分類ではIII度であった. 頭部X線写真では, 大小泉門が開存し, 頭蓋縫合の離開を認め, 下顎角は鈍化していた. 上顎洞は狭小で, 鼻腔の発育不全を認めた. 既往歴では, 15歳時に右鎖骨を骨折して以来, 計6回に及ぶ他の骨の骨折を経験していた. 前投薬は, 1時間前に硫酸アトロピン, 塩酸ヒドロキシジンを筋肉内に投与し, 手術室入室後, ドロペリドール, フェンタニルの静注で鎮静を得た. その後, 意識下で気管支ファイバースコープを用いて左側鼻孔より内径7mmの気管内チューブ (RAE®) を挿管した. 麻酔維持は笑気, プロポフォール, フェンタニル, ベクロニウムで行った. 術中は, 特記すべきことはなかったが, 抜管直後から鼾様狭窄音を認めたため, 経鼻エアウェイを挿入した. 帰室後, 翌朝までセミファウラー位とし, 酸素飽和度の連続監視を行った. 循環, 呼吸ともに安定していたので, 翌朝, エアウェイを抜去した. その後も呼吸困難はみられなかった. 本症では, 麻酔操作により骨折しやすい点とともに上気道管理に注意する必要がある.