抄録
先天性プロテインS (以下PS) 欠乏症は, ビタミンK依存性の凝固阻害作用に関係する蛋白であるPS欠乏により, 容易に血栓症が生じる疾患である. 我々は深部静脈に血栓を有するPS欠乏症患者の埋伏智歯の抜歯を経験したので報告する.
患者は21歳の男性. 左側下顎智歯周囲歯肉の疼痛を主訴に当科を紹介され受診した. 17歳時, 先天性PS欠乏症, 左下肢深部静脈血栓症 (DVT) と診断され, ワルファリンカリウムによる抗凝固療法を受けていた.
抜歯に際し, 心臓血管外科と麻酔科とともに抗凝固療法と麻酔法について検討した. 臨床症状と超音波所見より血栓は陳旧性であり, 遊離する可能性は極めて低いと判断した. そこで3本の埋伏智歯抜歯は, ヘパリンカルシウムによる抗凝固療法を行いながら, 全身麻酔下で行うこととした. 抜歯後異常出血, 血栓塞栓症などの合併症や下肢腫脹はなかった.