抄録
抗血栓薬を服用中の患者に対して抜歯や手術を行う際に, 内服薬を中止するか, 継続したままで行うか, 対応に苦慮することも多い. 今回われわれは, 術前検査の結果, 出血時間の著明な延長を認めたが, 抗血小板薬の内服を継続して観血的処置を施行した1例を経験したので報告する.
患者は73歳, 男性. 右側下唇粘膜部から頬粘膜部にかけての腫脹と疼痛を主訴に来院した. 同部に義歯維持装置が迷入しており, 摘出術が予定された. 既往歴に狭心症, 脳出血, 脳梗塞があり, アスピリン, チクロピリジンによる抗血小板療法を受けていた. 術前検査で出血時間が20分以上と延長を認めたが, 全身状態, 処置内容ならびに, かかりつけ医への対診結果を勘案し, 抗血小板薬服用下での静脈内鎮静法を施行し義歯維持装置を除去した. 術後, 異常出血や血栓塞栓症などの合併症は認めなかった.
患者の全身状態にあわせて十分な周術期管理計画の立案が肝要であると考えられた.