有病者歯科医療
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HIV感染者の歯科診療
伊藤 正夫宇佐美 雄司金田 敏郎
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1993 年 2 巻 1 号 p. 1-9

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抄録

名古屋大学医学部附属病院歯科口腔外科では, 総計44例のHIV感染者歯科診療を行っており, その内3例の診療概要を報告し, 本症歯科診療の問題点を検討した。
症例1
症例はCD4 95/μl, CD4/CD8比0.28と血液学的データは悪く, 臨床的にはAIDS関連症候群 (ARC) であった。特に前駆症状を示すことなく, 右口狭咽頭炎と口腔底峰窩織炎を発症した。イミペネム1000mg/日とガンシクロビル10mg/日連日点滴投与によって7日後消炎した。右下顎智歯周囲炎に継発する日和見感染と思われた。HIV感染者においては口腔衛生状態の保持に特段の配慮が必要である。
症例2
症例は, 重症型血友病A, CD4: 343/μl, CD4/CD8比: 0.26で無症候性キャリアー (AC) であった。3本の智歯同時抜去を施行したが, 一過性に抗第VIII因子抗体が出現し, 止血に難渋した。症例は長期間出血が持続し, 病棟汚染が危惧されたため, 感染防御に特別の対策を考慮する必要に迫られ, 個室収容を余儀なくされた。
症例3
症例は, 口腔内に多くの歯科的問題を抱えしばしば感染を生じても, 定期通院ができない感染者であった。通院を阻む最大の理由は, 居住地が遠隔地であることであった。失職の恐れや差別に対する恐怖から, HIV感染の事実を職場に告げることはできず, 歯で入院したり, 遠くの病院へ通うのはおかしいと叱責されることも少なからずあるとのことであった。社会支援の一環として, 歯科医療供給体制の整備は急務である。

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