抄録
皮膚科領域では最近10年間に, 医真菌学や真菌症の分野で主に次のような変動や進歩がみられた.1) 日和見感染に代表される, いわゆるcompromised hostにおける真菌症が問題化した.2) 激減していた頭部浅在性白癬やケルスス禿瘡が, 再びみられるようになった.また, 従来の病型にない異型白癬が増加し, ステロイド外用剤の影響が明らかにされた.一方白癬菌相では, Microsporum canisやTrichophyton verrucosumが全国に蔓延した.3) 乳児寄生菌性紅斑が全国的に増加し, ステロイド外用剤の濫用が原因の一つとして指摘されたが, 最近ようやく減少傾向を示してきた.また, 慢性皮膚粘膜カンジダ症の病態解明や治療法についての研究がなされた.4) マラセチア毛包炎が本邦でも報告された.5) スポロトリコーシスにおいて, 組織内菌要素を豊富に認める症例が増加した.6) 黒色真菌感染症では, Exophiala jeanselmei感染症が増加し, Ajelloのいうphaeohyphomycosisの疾患概念について論議をよんだ.また, 黒癬が本邦で初めて観察された.7) コクシジオイデス症, パラコクシジオイデス症などの輸入真菌症の報告がみられた.8) イミダゾール系抗真菌剤を中心に治療薬が開発され, 特に内服可能なケトコナゾールが臨床応用された.