抄録
心臓に真菌感染が認められた剖検心40例を用い,その病変の分布や拡がり,組織像について病理組織学的に検討した.
Candidaの病変数は,左室壁,特に心内膜側2/3に多く認められた.これに対しAspergillusでは,Candidaに比して病変数が少なく,症例ごとに特定の部位に集中した分布傾向が認められた.
個々の病変に対し,菌数や心筋の変性像,炎症性細胞浸潤等の組織学的特徴から病変の分類とその頻度について検討した.この結果,Candidaでは,ごく少数の菌要素を伴った膿瘍型病変が最も多かった.また,心筋内に多数の病変の形成をみた症例では,多臓器にCandidaの散布がみられた.さらに死亡前の末梢血白血球数との相関について検討したところ,白血球数の増加が著しい症例では膿瘍型病変の占める割合が特に高かった.Aspergillusの病変の基本的な組織像は,凝固壊死型病変と膿瘍型病変の2型に大別し得た.また全例に小動・静脈の侵襲像が認められ,侵襲血管の内腔に沿うような菌糸の伸長もみられた.
病変の分布や組織像は,菌種によって異なっており,Candidaでは末梢の毛細血管領域での菌要素の塞栓が病変成立の第一歩であると考えられた.これに対し,Aspergillusでは,塞栓部での病変形成のみならず,侵襲血管内腔に沿った菌の増殖とこれに基づく病変の拡大が推察された.