抄録
68歳,男の左前腕伸側,腕時計装着部位に生じた生毛部急性深在性白癬の1例を報告した.鱗屑及び毛の直接顕微鏡検査で真菌要素が認められ,培養によりTrichophyton rubrumが分離された.組織中に真菌要素を確認しえなかったものの,毛嚢周囲に肉芽腫性組織反応を認めたため,臨床所見と合わせ,本症と診断した.トリコフィチン反応は陰性であった.初診時より認められた足白癬に対し抗真菌剤を外用したが左前腕の患部は無治療で経過観察したところ2ヶ月後には治癒した.本邦では本症は腕時計装着部位に生じることが多く(18例中7例),そのほとんどが診断確定後速やかに抗真菌剤の内服療法を開始している.しかし外用のみで治癒した例や自験例のように腕時計をはずすだけで治癒する例もあることから,本症では内服治療の前にまず外的要因を取り除き,経過を観察することも必要と思われる.