2001 年 42 巻 4 号 p. 243-251
二形性真菌であるC. tropicalis Pk233株は,合成液体培地の系においてエタノール添加により菌糸形成が誘導される.本研究は,この菌糸形成の制御機構を解明するため,菌糸形成に関与する遺伝子を分離同定することを目的とし,その手段として新たにサブトラクション法を開発した.即ち,強力なRNaseによるmRNAの分解を最小限に抑えるため,mRNAから直ちに安定なcDNAを合成し,このcDNA間でサブトラクションを行うために,オリゴdTが付加された鉄粒子であるDynabeads oligo(dT)25上にcDNA libraryを構築した.Dynabeads上のcDNAは磁石により上清と容易に分離可能なため,従来のサブトラクション法に必要な煩雑な手順を省略でき,得られたサブトラクトcDNAは両末端の塩基配列を利用しPCRで増幅できるためクローン化が容易になった.この新しいサブトラクション法を用いて,エタノール添加による菌糸形成培地で発現する遺伝子群から酵母形成培地で発現する遺伝子群を差し引き,サブトラクトcDNAのクローンを獲得した.得られたクローンは塩基配列を決定した後,相同性検索を行った.その結果,その一つとしてMAPキナーゼカスケードと相互作用するtyrosine phosphatase geneや,チアミン生合成に関与するnmt1+などのホモログがクローニングされた.