日本腎臓病薬物療法学会誌
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原著
サルコペニア患者の腎機能予測における血清クレアチニン値0.6 mg/dLへのround upの妥当性評価
内海 紗良前田 圭介久保田 丈太中谷 咲良原田 義彦成田 勇樹猿渡 淳二近藤 悠希石塚 洋一入江 徹美門脇 大介平田 純生
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2021 年 10 巻 1 号 p. 3-10

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抄録

日本では、血清クレアチニン(SCr)値を用いたCockcroft-Gault式による推算クレアチニンクリアランス(eCCr)や日本人向け推算糸球体濾過量(eGFRcr)によって腎機能が推算されるが、筋肉量の減少に伴うSCr値の低下により腎機能が過大評価されてしまう恐れがある。これを防ぐため臨床現場ではSCr値が0.6 mg/dL未満の患者に、SCr=0.6 mg/dLを代入して補正するround up法が汎用される。ところが、このround up法により腎機能推算の予測性が向上したといった報告は少なく、科学的根拠は乏しい状況である。本研究では、SCr=0.6 mg/dLへのround up法の妥当性を評価した。

2017年5月から2017年8月に玉名地域医療保健センターに入院していた65歳以上でSCr値が 0.6 mg/dL未満のサルコペニア患者11名を対象に、後ろ向き解析を行った。酵素法により測定したSCr値を用いたeCCrおよびeGFRcrと、SCr=0.6 mg/dLにround upしたeCCr(round up)およびeGFRcr(round up)のそれぞれの値を、24時間蓄尿法で求めたCCr(mCCr)およびmCCr×0.715で換算したmodified GFRを基準値として比較した。

相関・回帰分析、Bland-Altman分析および誤差指標から、eCCr(round up)値はeCCr値よりも腎機能を過小評価する傾向があった。eGFRcr値は腎機能を顕著に過大評価し、eGFRcr(round up)値は過大評価が軽減されるが、依然として過大評価傾向にあった。

今回の検討からは、eCCr値およびeGFRcr値のどちらの推算式においてもround upの妥当性は示されなかった。このことから筋肉量が減少したサルコペニア患者においては、SCr値をround upすることは適切ではなく、むやみにround upを行うことは避けるべきである。

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