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日本鳥学会誌
Vol. 61 (2012) No. 2 p. 223-237

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http://doi.org/10.3838/jjo.61.223

総説

 日本鳥類目録第6版は種分類に関して併合主義的傾向が強く世界的な傾向との不一致が目立つようになり,国際的な活動やデータベースの利用において支障が生じている.第7版への改訂に際して,DNAバーコーディングの現状をまとめ,そこから最近分かってきた日本と東アジアの鳥の特徴について述べ,鳥類における種概念と種ランクの割り当て方についての世界的動向をまとめることで,今後の日本の鳥の種分類研究の重要性について述べた.DNAバーコーディングはDNAの一領域(動物ではミトコンドリアDNA COI領域)の塩基配列から種を同定するプロジェクトであり,配列データや証拠標本データなどを登録してデータベースの作成が進んでいる.世界の約40%の鳥類種,日本の繁殖種の約96%が登録された.新大陸での研究では遺伝的に極めて近い近縁種もいくらかいることがわかったが,2~2.5%の分岐が種を分ける目安になることが示唆されている.2~2.5%の分岐の目安は韓国やスカンジナビアなどでも多くの種が当てはまることがわかった.ロシア・モンゴル周辺地域の研究では8.3%もの種で2%を越える大きな分岐が種内に見つかった.日本の繁殖種のうち230種について旧北区東部のデータも含めて分析したところ,種内変異が2%よりも大きい例が32種(14%),種間が2%よりも近い例が33種にものぼることがわかった.氷河期に氷河の発達が弱く,集団の絶滅が少なかったことと日本列島での急速な周縁的種分化の影響が考えられる.種分類は単にDNAバーコード配列を基礎にしてはできないが,バーコードでの概略的調査はさらに生物学的調査が必要な種を見つけ出す良い方法となる.現代の種概念は統合性(不可逆性)を重視する種概念と識別可能性(または単系統性)を重視する種概念に大別される.両者は非和解的と考えられてきたが和解的に統合させる試みがなされている.一般的メタ個体群系譜概念や包括的生物学的種概念がそれであり,本質的な種の認識に近づいていると評価できる.それでも目録の作成などの際に実際に種ランクを割り当てるにはガイドラインが必要であり,イギリス鳥学会のガイドラインは鳥の種分類に現実的な提案をおこなっている.生物の種分類をおこなうには,DNAだけではなく,形態,生態,行動,生理など様々な生物の側面からみた生物学諸分野の具体的成果として総合的になされる必要があると私も考える.日本の鳥の分類について責任をもつ唯一の団体として日本鳥学会の真価が今後ますます問われていくことになるだろう.

Copyright © 2012 日本鳥学会

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