クマゲラDryocopus martiusは森林生態系において重要な役割を担う希少種であり,積雪により採餌環境が制限される冬期にのみ生立木の樹幹を掘って採餌する習性をもつ.積雪地帯で活動する鳥類において,冬期の採餌場所選択が生存に深く関与するため,冬期の採餌場所や広域での生息適地を明らかにすることは,クマゲラの生息環境の保全を進める上で重要である.そこで,札幌市の山域において,クマゲラが冬期に採餌場所として利用する生立木の採餌木選択と採餌場適地に関する調査を行った.結果,低地の森林で大径木を採餌場所として利用し,周辺環境としては針葉樹割合が高く,針葉樹の立枯れ木が多い特徴が見られた.Manlyの選択性指数を用いた樹種選択の解析より,本州から北海道に導入されたカラマツLarix kaempferi,先駆樹種であるシラカンバBetula platyphylla が冬期採餌木として有意に選好された.潜在的な冬期の採餌場所を推定する MaxEnt による解析では,標高が低く,カラマツ林割合が高い,傾斜の緩やかな,より湿潤な地形で冬期の採餌場適地確率が高くなった一方で,北向き斜面はその他の斜面方位に比べて冬期の採餌場適地確率が低下した.本調査地では,都市部に隣接したカラマツの人工林を含む成熟した低地林がクマゲラの冬期採餌場所として重要であることが示唆された.よって,低地の成熟した森林の保全は,クマゲラの冬期の採餌場所の保全に重要な役割を果たす可能性がある.また,大径木や立枯れ木といった生物多様性の維持に重要な構造を含むクマゲラの冬期の採餌場適地を把握することは,生物多様性の高い場所の効率的なゾーニングにつながることも期待される.
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