鳥類の換羽は飛行機能や体温調節機能の維持のために行われる.海鳥は,繁殖期または非繁殖期に換羽を行うが,特に非繁殖期に換羽する種は繁殖地から離れて海上で換羽を行うため追跡が困難である.従来の研究では標本や混獲,異常気象による大量死で打ち上げられた死体などの限られたサンプルを利用して換羽時期の推定を行なっていたため,換羽の研究は不足しており,換羽時期が不明な海鳥が複数種存在している.様々な研究に応用可能な生態データである換羽時期に関する知見を増やすため,新たな換羽時期推定の手法開発が急務である.そこで本研究では,ウミスズメ科鳥類のウトウCerorhinca monocerataとエトピリカFratercula cirrhataの初列風切羽の換羽について,インターネット上で公開されている画像データを収集し,初列風切羽の換羽状況を調べた.さらに北海道天売島において繁殖中のウトウ親鳥の捕獲調査を行い,初列風切羽の換羽状況を記録した.これらの結果により,ウトウは7月から9月,エトピリカは8月から少なくとも9月まで換羽を行うことが推定された.また,天売島でのウトウを用いた野外調査では繁殖期間内に換羽を行わなかったことから,少なくとも天売島のウトウ個体群は非繁殖期に換羽することが明らかとなった.本研究は画像データを用いた手法が換羽時期推定に有用であることを示し,画像データの活用の幅を広げた.
抄録全体を表示