日本鳥学会誌
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原著論文
福島第一原子力発電所事故後のスズメ目鳥類における生活史段階に応じた吸収線量率の評価
Audrey STERNALSKI松井 晋Jean-Marc BONZOM笠原 里恵Karine BEAUGELIN-SEILLER上田 恵介渡辺 守Christelle ADAM-GUILLERMIN
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2015 年 64 巻 2 号 p. 161-168

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抄録

 福島第一原発事故から1年が経過した2012年に福島県内で採集したスズメ目鳥類3種(ヤマガラ,スズメ,カワラヒワ)の成鳥と,シジュウカラの未孵化卵および巣材で測定した放射性セシウム(134Cs および137Cs)濃度から,内部および外部被曝線量率と,それらの合計被曝線量率を推定した.外部被曝線量率が合計被曝線量率に寄与する程度は,生息地の微細環境(例:地表,空中および樹上,巣内)の汚染の程度と,生活史段階(成鳥もしくは卵の各段階)に応じた各微細環境での活動時間の影響を受け変化した.すなわち,シジュウカラの未孵化卵の外部被曝線量率は内部被曝線量率よりも高く,主に巣材の汚染に由来していた.シジュウカラの主な巣材は多量の放射性核種を保持することが知られているコケ類で,外部被曝線量と内部被曝線量率の差は1,000倍以上に及んでいた.さらにシジュウカラの未孵化卵で推定された合計被曝線量率は,野外で測定した空間線量率をはるかに上回っていた.これらの結果は,野生動物に対する放射線被曝の影響を評価するためには,詳細な線量分析を実施することと共に,慎重に対象種の生活史を考慮することで,個体に対する生物学的影響のより適切な評価に繋がるだろう.

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© 2015 日本鳥学会
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