日本鳥学会誌
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原著論文
沖縄島北部におけるフイリマングースの定着地域と非定着地域における人工地上巣への捕食圧および捕食者相の比較
小高 信彦渡久地 豊
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2020 年 69 巻 1 号 p. 19-30

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抄録

侵略的外来種フイリマングースHerpestes auropunctatus(以下マングース)は沖縄島北部やんばる地域に固有のヤンバルクイナGallirallus okinawaeやホントウアカヒゲLuscinia komadori namiyeiの個体群に深刻な影響を与えていると考えられている.本研究では,沖縄島北部の森林の地上付近に営巣する鳥類の巣の卵に対する捕食圧と捕食者相について,マングースの定着地域と非定着地域の比較を行うために人工巣捕食実験を行った.人工地上巣の捕食率は両調査地で高く,マングースの定着地域と非定着地域における統計的な有意差はみられなかった.マングースの定着地域では,ハシブトガラスCorvus macrorhynchos,マングース,クマネズミ属Rattus spp.による人工地上巣の捕食が確認された.一方,マングースの非定着地域では,ヤンバルクイナ,ハシブトガラス,イノシシ,クマネズミ属による人工巣の捕食が確認された.マングースの定着地域の森林生態系を修復し固有鳥類の個体群を回復するためには,マングースの排除とともに,人為的な影響によって個体密度が増加すると考えられるハシブトガラスや侵略的外来種であるクマネズミ属の対策も考慮に入れる必要があると考えられた.マングースの非定着地域では,ヤンバルクイナが主要な人工地上巣の捕食者となっていた.ヤンバルクイナは食肉目のような捕食性哺乳類のいない捕食圧の低い沖縄島の安全な環境下で無飛翔化の進化を遂げてきただけではなく,空いている食肉目の採餌ニッチを利用していると考えられる.

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