2021 年 70 巻 2 号 p. 131-137
水田で営巣するケリVanellus cinereusの繁殖期は農繁期と重複し,農業活動にともなう人為撹乱が本種の繁殖に影響を与える可能性がある.本研究では圃場整備済み水田の農事暦とケリの産卵のタイミングの関係を調査し,人為撹乱がケリの繁殖成功に及ぼす影響を検討した.調査は2008年から2015年の8年間,京都府の巨椋池干拓地(710 ha)で行ない,計176巣を確認した.ケリの産卵は3月から7月にかけてみられ,3月と4月に集中していた.また3月から5月の営巣場所は主に田面であったが,6月になると田面から畦に移行した.ふ化成功率は3月が最も高く,その後は月を重ねるごとに低下した.また畦での産卵は5月以降に微増するものの,ふ化成功に至る巣は少なかった.ふ化失敗の要因は,田面では耕起による巣卵の破壊,および湛水にともなう巣卵の水没が大半を占めた.調査地の水田では,4月下旬から5月上旬にかけて耕起がほぼ一斉に実施される.ケリの抱卵日数は約30日であるため,調査地のケリは3月に田面で産卵することにより,人為撹乱が始まる前にヒナをふ化させることができ,実際,3月産卵がヒナの半数近くを生産していた.このようにケリは,農業活動にともなう人為撹乱を回避しながら繁殖を行なっていることが示唆された.