抄録
北海道大学苫小牧地方演習林の庁舎付近では,1973年以来,鳥への給餌が行われている.1976年2月2日,餌台でアトリの群が採餌していたとき,近くにいた1羽のシジュウカラが警戒声を出した.アトリは餌台近くの樹上に飛び上ったが,シジュウカラは餌台に飛び移って採餌を行った.この警戒声は,ワシタカ類等が現れないのに発声されたもので,これを"偽の警戒声"と名付けた.これ以降冬期間には,カラ類が偽の警戒声を出すのが頻繁に観察された.現在までの観察をまとめると以下のようになる.
(1)偽の警戒声を出したのは,シジュウカラ,コガラ,ハシブトガラであった.同じ Parus 属のヤマガラ,ヒガラでは偽の警戒声を確認していない.
(2)アトリ,スズメ,ミヤマホオジロ,カシラダカ,ベニヒワに対して,カラ類は偽の警戒声を発した.これらの鳥は,群で餌台に飛来することで共通していた.
(3)偽の警戒声を出したカラ類は,自分では何の警戒姿勢や行動をとることはなかった.
(4)偽の警戒声が観察されてから4年経過したが,それに反応するアトリ等に偽と本物の警戒声を区別するような行動は現れていない.