日本鳥学会誌
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非繁殖期におけるイワヒバリ Prunella collaris の社会単位
中村 雅彦, 松崎 善幸, 大鷹 宏彰
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1996 年 45 巻 2 号 p. 71-82,119

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抄録
多くのスズメ目鳥類は,冬期は群れ(flock)で生活し,夏期には番いがなわばりの中で繁殖するといった非繁殖期と繁殖期で異なる2つの社会的な相(phase)をもつ(LACK1968)。エナガ Aegithalos caudatus やシジュウカラ Parus major などの留鳥では,これら2つの相は密接に関連しており,非繁殖期の群れは繁殖期の番い形成やなわばり形成を規定している。一方,渡り鳥は非繁殖期に単独なわばり,種間なわばり,一時的な集合,群れといった多様な社会行動を示すにも関わらず,これらの社会行動と繁殖期の社会構造の関係にはほとんど注意が向けられてこなかった。これは渡り鳥の社会構造に関する研究が主に繁殖期に集中しており,また繁殖期に標識した個体の越冬地を特定するのが難しく,同一個体を通年追跡することがほとんどできないためである。我々は,イワヒバリ Prunella collaris の社会構造を調べるため,乗鞍岳において1985-95年の繁殖期に680個体を標識した。しかし,これらの個体は,10月初旬に繁殖地から渡去し,その越冬地がわからないため,越冬生態はよくわかっていなかった。ところが,各地の野鳥観察者の情報から,乗鞍岳で標識した5個体の越冬地4ヶ所を知ることができた。
繁殖期のイワヒバリの社会単位は,血縁関係のない約7個体からなるグループで,その構成員はグループなわばりを共有する(NAKAMUNA 1990a,1995b)。本種は,雌は同一グループの複数の雄と頻繁に交尾をし,雄は交尾した複数の雌の雛の養育を手伝うといった協同多夫多妻の繁殖システムを持つ。繁殖期のグループの構成は,シーズンを通して,また数年にわたって安定している。典型的な協同繁殖鳥は,通年安定した群れ生活をする鳥類に多い(BROWN 1987)。イワヒバリもまた繁殖期の社会単位を非繁殖期まで維持するのだろうか。本論文では,イワヒバリの越冬地における社会単位と越冬生態を報告する。
乗鞍岳で繁殖期に標識した5個体の越冬情報は,次の4ヶ所から得られた(Fig.1);栃木県上都賀郡足尾町(1個体),愛知県北設楽郡豊根村古真立新豊根ダム(1個体),奈良県吉野郡川上村下多古(1個体),山梨県南都留郡河口湖町御坂峠(2個体)。標識個体の越冬地に対する土地執着と越冬生態を調べるため,足尾では1989-95年の冬期に18日間,吉野では1990-93年の冬期に8日間,御坂峠では1992-95年の冬期に10日間調査を行った(詳細な調査スケジュールは,Table 1参照)。新豊根ダムでは,乗鞍岳での標識時(1989年9月)に若鳥だった個体が1990年2月に死体で回収されたが,現地調査は行わなかった。
各越冬地は,山や谷の急峻な斜面にあり,斜面には一本の道路が走っていた。調査地を道路沿いに設定し(足尾14ha,吉野8ha,御坂峠8ha),100×200mの方形区に分割した。道路を1日に5回歩き,標識個体の発見に努めた。個体を発見した場合,3時間以上追跡することで,利用した方形区と群れサイズを決定した。2羽以上の個体が同時に10m以内にいて,少なくとも10分間一緒に同一方向に移動した場合を群れと定義した。
越冬地の長期調査に加え,1995年には足尾と御坂峠で未標識の越冬個体(足尾4個体,御坂峠8個体)をカラーリングで標識し,個体間の結びつきの程度を2日間追跡した(足尾1995年2月27,28日,御坂峠1995年3月23,24日)。捕獲と行動観察を容易にするため,各調査地の道路沿いに餌場を設定した。各個体を10分から60分連続追跡し,行動は,採食,休息,さえずり,羽づくろい,個体間関係に分け,それぞれの行動の所要時間と位置を地図上に記録した。個体間の結びつきの指標(coherence index)には,ある個体の総観察時間に対し,他個体がその個体と10m以内の範囲で行動をともにした時間の割合を用いた。捕獲時には体重と翼長を測定し,雌雄判別の資料とした(本文及び図表のMは雄,Fは雌,Yは乗鞍岳標識時の若鳥を示す)。
足尾吉野,御坂峠で越冬した標識個体(それぞれF1とM1,Y1,M2)は,越冬地に対する土地執着を示し,数年連続して同じ越冬地の方形区で記録された(Table 1)。乗鞍岳標識個体のF1とM2は,それぞれ1988-95年と1993-95年の繁殖期に連続して乗鞍岳に帰還した。しかし,乗鞍岳標識時に若鳥だった吉野のY1や足尾で冬期に標識したM1は,繁殖期に乗鞍岳で確認されなかった。1994年に乗鞍岳で生まれたM3は,1995年の2月と3月に御坂峠で確認できたが,乗鞍岳には帰還しなかった。異なる調査年度の情報をこみにすると,F1は11月から3月,M1は11月から1月,Y1は12月から2月,M2は12月から3月の各月にそれぞれの越冬地で確認されたことになる(Table 1)。このことから,イワヒバリはいったんある越冬地に定着すれば,冬中その越冬地に定住することが示唆された。
各越冬地で乗鞍岳標識個体は,単独あるいは2-10羽の未標識個体(Ub)との群れで発見された(Table 2)。乗鞍岳標識個体の繁殖グループや出身グループの構成員は,繁殖期の標識調査によりすべてわかっている。
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